誰しも自転車映画を語るとき、古典的名作「自転車泥棒」を思い出すであろう。
1948年公開のビットリオ・デ・シーカ監督のこの映画は、盗まれた商売道具の自転車を探して奔走する父子を通し、戦後の困窮するイタリア社会をリアルに描いた作品である。

映画の公開は第2次大戦直後だった。イタリアのみならず敗戦国日本でも、自転車は“一家に一台”の耐久消費財として貴重品だった。
なにしろ終戦間際には、鉄鋼やゴム資材は軍需に集中、自転車工場も軍需品生産に転用されていた。かつては輸出産業の花形だった自転車で、まともに動くものは国内でわずか10万台ぐらいだったと伝えられている。
だから盗難防止には格別に留意し、自転車盗難が大きな話題になることは少なかった。
盗難が社会問題化したきっかけは、1970年代後半から。
このころから廉価部品を集荷して完成車に組立てるアッセンブラーが、安売りを掲げるスーパーやホームセンターと結びつき、自転車の価格破壊が始まった。
90年代から2000年代に入ると、国産車のおよそ三分の一の価格の中国台湾廉価輸入車が大量に流入、自転車の価値感は失われ消耗品的消費財に堕ちていった。
駅前には大量の放置車が溢れ、もちろん盗難対策も必要だったが、この放置車対策が自治体の喫緊の課題となった。

今日、自治体や企業の努力の結果多くの盗難・放置車は片付けられ小康状態を保っている。
それに代わったわけではなかろうか、近年にいたり自転車本体ならぬバッテリー(電池)の盗難が話題になっている。

警視庁通達(2020年2月)によると 、
電動アシスト自転車のバッテリー盗難が増加しているという。

電動アシスト車は1990年代の誕生以来、楽な自転車が女性層に受け入れられ着実に販売を伸ばし、最近10年間で2倍以上の80万台を記録、100万台も目前である。
しかしバッテリー盗難が問題になったのはここ数年のこと。それまでは話題にもならなかった。
何故か?
インターネット時代の到来により、フリマアプリで手軽に換金できる“故買市場”が誕生したからである。
何しろバッテリーの正規品は~4万円、消耗品のため3~4年で交換が必要になる。ちょっとした小遣い稼ぎにはもってこいだ。
もともとタイヤやサドルなどの自転車部品の盗難は古くから発生していた。なかでもスポーツ車の前輪はクイックリリース機構があるため簡単に外せる。
1980年代のニューヨークでは、故買市場があったため(今でもあるだろうが)悪ガキの格好の小遣い稼ぎになっていた。対抗策として持主も前輪を外してオフィスに持っていく。このため立ち木などに前輪のない自転車が結ばれている姿をしばしば見たものだった。
電動アシスト車需要はますます増加していく。自衛策が必要である。
警視庁お勧めのバッテリー盗難防止対策を紹介して参考に供したい。
1.まずは鍵をかけること。盗難の多くは鍵の付けっぱなしにある。
2.二重ロックをすること。施錠していても工具などでバッテリーを外されることがあるので、ワイヤー錠など別の鍵を使っての二重ロックが望ましい。

3.帰宅の際にはバッテリーを屋内に持ち帰る。敷地内駐輪でも安心できない。