銀輪賛歌(マエダ工業株式会社60周年記念)

(マエダ工業 三幸社 1982年刊)

今回紹介する自転車本は、1900年代後半「サンツアー」ブランドの名の下に世界に雄飛した、マエダ工業の60周年記念史である。

本書が刊行された1982年(昭和75)は、“黄金の80年代”と呼ばれる日本自転車産業2度目の繁栄期到来を目前にして、多くの完成車・部品企業が競い合った時代であった。

日本屈指の部品メーカー・マエダも、自らを“技術のマエダ”と標榜、“マエダ第三の創業期”を打ち出し、更なる高みを目指していた。

そのころのマエダは、売上高が初めて100億円を超え、その70%を米欧中心に輸出、カンパノーロ(伊)・ユレ―(仏)・サンプレックス(仏)・シマノ(日)と並ぶ“世界自転車部品5大メーカー”になったと意気盛んだった。

通読すると、企業の勃興期の熱気が伝わってくるが、本書は史料の乏しい戦前と戦後間もないころの自転車部品史を探求する第一級資料でもある。

第二部 マエダ工業六十年の歩み

1.第一の創業期 シングルフリー

2.第二の創業期 外装変速機

これらを紐解けば、ギヤ回りの機能部品の国産化と成長の過程、それに関わったマエダの歴史がわかる。

  しかし、本書は単なる企業史にとどまらない。

「銀輪賛歌」の表題の通り、また文中の“自転車文化に貢献するマエダ”のフレーズにふさわしく、社史よりもむしろ自転車に関する様々な考察に多くの紙数が割かれている。

第三部 VIP対談(長島茂雄・稲尾和久・河合淳三)

第四部 現代自転車考

通常の社史には珍しいこれらの記述は、“自転車業界の文化人”と評された、当時の社長河合淳三の趣向を反映したものであろう。

末尾に「技術スタッフ座談会」と題して、マエダの技術陣20名ほどが“自転車の夢・未来”を語った議事録が掲載されている。

「わがサンツアーが永遠に不滅であるためには何が必要か?」

様々な意見が出たのち、司会者がこう結んでいる(要約)。

「冷ややかな鉄の塊が自転車であってはいけない。人間ごころ、人間らしさがあればサンツアーは末永く発展する。社長に代わって(笑)そう思います」と。

  本書は、発刊後わずか10数年で消滅したマエダ工業のレクイエムである。

5か月前