サイクルキャンピング

日本経済新聞夕刊に「こころの玉手箱」というエッセイ欄があって、各界のいろいろな人が、人生で心に残った思い出の品々を語っている。

その欄に自転車がしばしば登場する。自転車が人々の生活に深いつながりを持っている表れである。

最近ではダイセル社長の小河義美さんが、学生生活に体験した2つの海外自転車旅行の思い出を綴っている。その一部を引用させていただく  

一つは韓国旅行。ワンダーフォーゲル部員7人で釜山から38度線近くまで縦断したという。

本文には「道中で現地の学生とも交流し、世界を肌で感じた。ただ7人の仲間内でつるむ時間も多く、1人で自分の力を試したいと考えた」と記述されている。

もう一つはアメリカ。ロサンゼルスからワシントンまで一人で横断した。

初日に熱中症で倒れて再出発までいろいろな人との出会いがあった。文中に「道中でも様々な人との出会いと別れを経験した。(略)一期一会という言葉が身にしみた」とある。

1日160km走り、ゴール間近に交通事故で入院する。本文には「こっそり病院を抜け出した。発熱しながら目的地のポトマック川にたどりついたが、達成感はまるでなかった。(略)放浪も止め時かもしれないと感じた。」

まさに、若い日々のかけがえのない経験であり、自転車旅行が出会いに大きな役割を果たしたことがわかる。

(21.1.26付け日本経済新聞夕刊記事)

表題に目をやると、「学生時代に米国横断に使った自転車」の写真がある。大きな荷物を振り分け、長期旅行のツーリング車である。

  小河さんが走った1980年といえば、60年代から続いたサイクルツーリング隆盛の最後のころである。

大手マスプロメーカーが、多機種少量生産を厭わず新需要振興のために、小旅行向きの「ランドナー」を中心に、山岳用「パスハンター」、長距離快走用「スポルティーフ」など、いわゆる“旅自転車”をつくっていた。そのフラッグシップモデルが、「キャンピング」であった。

(ブリヂストン「ダイヤモンドキャンピングDC-15」。前後キャリア・大きなパニアバッグ・ボトル・エアポンプ.・700Cタイヤ・15段変速など標準装備)

多くの若者がツーリングバイクに乗り、荷物を積んで自転車旅行をした。北海道一周などが人気であった。

  自転車旅行の頂点は世界一周。史上初の快挙を果たしたのは、アメリカ人トーマス・スティーブンス。

(史上初の世界一周旅行者トーマス・スティーブンス)

1884年サンフランシスコからニューヨークまでアメリカ横断。船で大西洋を渡り、イギリス・フランスを経てヨーロッパ大陸を南下、中東・中国を経て船で日本へ。長崎から東海道を走り、横浜からサンフランシスコに帰国した。

使用車はペニーファージング(いわゆる“だるま車”)、自転車走行22.000km、滞在を含め約3年近くを要した。ペニーファージンはチェーンがない前輪駆動で、高速走行できるが空気入りタイヤや変速機など未だなく、悪路では苦戦の連続だったことだろう。

(「日本は道がよく清潔で親切」と旅行記に記されている。1886年のこと)

  日本人で最初に世界一周をしたのは、広島の冒険家中村春吉。

1902年、横浜から船旅をまじえ、中国・シンガポール・インド・ヨーロッパ・アメリカを1年数か月かけてまわった。使用車はチェーン後輪駆動、空気入りタイヤ装着のアメリカ製安全車「ランブラー」だった。

(日本人で初めて世界一周をした中村春吉と安全車)

(追記)日経新聞「こころの玉手箱」に掲載された自転車について、これまで「角田安正・雑記帖」欄で紹介しています。

〇弁護士福井健策さんの「ブリヂストンの自転車」

マーケティングのこころ – 自転車物語Web (jitenshamonogatari.com)

〇劇作家佐藤信さんの「町の雰囲気感じる自転車」

自転車の普遍性 – 自転車物語Web (jitenshamonogatari.com)

併せてご高覧いただければ幸いです。

4か月前

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