北海道ぶった切り(3) /美幌から帯広

日本横断ぶった切りの最終地北海道を走り始めたアツシとカンタさん。1日目は網走から美幌町まで40Kmを走破した。

  この時東京では、1年前に沖縄を一緒に走った先輩タリンが、大腸がんの末期症状の痛みと闘っていた。オッサンたちは北海道を満喫しつつも、タリンのことが心配で仕方がない……。

(北海道ぶった切りコース全体像)
(1日目の軌跡 ※ガーミンデータ)

帯広を目指して南下

朝6:00ホテルを出発  

「カンタさん、昨日の網走監獄での写真にタリンが“いいねボタン”を押してましたよ」

「オレのfacebookにも書き込みがあった。“頑張れって”生存確認はできた(笑)」

  2日目は帯広まで約160kmを走る。

スタートしてすぐに登りが始まるが、それを越えると内地の平坦路をひたすら南下するコース。今までのぶったり切りに比べれば難易度は低く問題はないだろう。カンタさんの調子もよさそうだ。

(2日目のゴールは帯広)

出発前、ホテルのオーナーから「今日の内地は暑いから気をつけてな」と言われたが、走り始めると暑さを感じない。暑いどころか多少肌寒いくらいだ、本当に暑くなるのか?

津別を通り抜け、まっすぐな51号線をひた走ると鹿の子峠への登りが始まる。頂上まで15km,標高差は約250mもあるが、最後の1kmが5%の勾配とキツイだけで全体には緩やか。無理せず軽いギヤで淡々と走る。ゆっくりマイペースが一番速い、今までの経験で良くわかっている。

1時間ほどで問題なく頂上に到着、小休止した。

「カンタさん、今回は調子よさそうですね」

「まだ暑くないし、ここ2か月結構練習してきたから、今回は任せろ!」

何を任せてよいのか解らないが、凄い自信だけはわかった(笑)。

(峠を越えた先は極寒で有名な陸別町)

「アツシ看板を見ろ!すごいな!冬はマイナス40℃だってよ、今度“雪中キャンプ”に来ようぜ!」

「まじっすか?高校時代のボーイスカウトで、カンタさん達がリーダーだった時にやらされた富士山麓の山中湖のマイナス15℃のキャンプでさえ死にそうだったのに!40℃なら本当に死にますよ(笑)。でも一度はこの寒さを経験してみたいですね(笑)」

楽しい道の駅

峠を超え、下ると陸別町の道の駅に到着した。ここからは242号線をひたすらな南下すれば帯広に着く。道に迷う心配はないがここからはコンビニが少ない。

代わりに頼りになるのが道の駅である。北海道は電車よりも車で観光する人が多いようで、道の駅は充実しており、各町の観光拠点にもなっている。

(道の駅を活用して休憩と補給)

陸別町を出発すると、次は足寄町に到着。20~30kmごとに道の駅があるのがありがたい。ここの道の駅には、なにやら大きな垂れ幕が見える。

(足寄町の道の駅には大きな横断幕)

「アツシ、今日は観光名所がないと思ってたけど、ひとつあったぞ!千春だ!」

カンタさんの言っている意味が最初わからなかったが、足寄町は松山千春の出身地とのこと。店内に入ると、この年はデビュー40周年記念ということで歴代のレコードや関連物が多数展示されており、なんと近くにある生家の場所まで案内されていた。

「せっかくだから生家を見に行きましょう!」とアツシが提案した。

カンタさん曰く、実家は新聞の配達店らしい。単なる店舗だろうし、面白みがないかもしれないが、一応寄ってみようということに。

(観光名所にしてるとしか思えない家構え)

案内看板に沿って走ることおよそ5分……表札を見るまでもなく、間違いなく生家とわかる!

意外と盛り上がりました(笑)

照り付ける太陽、向かい風との闘い

足寄町を出発すると暑さが厳しくなってきた。この日は雲一つない晴天。帯広に至る国道242号線はひたすら真っすぐな道、木々もなく直射日光が容赦なく照り付ける。ホテルのオーナーが言った通りの暑さだ。

本別町に入ると、風が強くなる、それも向かい風。気温も急上昇してきた。時速20kmも出なくなり、気付かず脱水にならないよう水分補給は積極的に行う。

アツシの後ろで黙々とペダルを回すカンタさん、二人とも口数が少なくなる。

北海道特有なのであろうか、走っても走っても景色が変わらない。スピードが上がらず時間だけが経過していく、まるで野外でローラー台に乗って練習しているようだ。

思った以上に疲労度合いが濃くなる。我慢との闘い1時間30分、ボトル2本とも水がなくなったタイミングで、運よく利別町のコンビニ到着。

(コンビニの日陰に避難、ここまでで130km走破)

「カンタさん、風ヤバかったですね。ボトルもギリギリだし。脚は大丈夫ですか?」

「おう!アツシの後ろについてたから、かなり助かったよ。まだまだ元気!今回は任せろって言っただろ(笑)」

  確かに、以前より強くなっている。ついに頼りになる先輩になったか?

リオデジャネイロオリンピック開幕中

コンビニでの補給が完了。国道242号線は利別町から帯広方面へ右折し西に進路が変わる。これで向かい風から解放された。左からの横風だが向かい風よりはましだ。なにより気分転換になっている。

帯広の手前、幕別町に入ると歩道に横断幕が見えてきた。なにやら見覚えのある名前が書かれている

(幕別町出身者を応援する横断幕)

  たまたま、ブラジルのリオオリンピックが開催中だった。自転車のMTB競技に出場ている山本幸平選手は、ここ幕別町出身である。

「アツシは、山本選手も良く知っているの?」

「そうです。アンダー23世代から、BSアンカーで走ってましたからね」

アツシは、BSアンカーチームのお手伝いをして、様々な選手と関わってきた。

山本選手はアウトドア専門学校出身、入学とほぼ同時期から2012年の北京オリンピックに参加するまでBSの契約選手として活躍していた。世界クラスの選手に成長したのちグローバルチームに移籍したが、今でも個人的に応援している一人だ。

山本選手のほかにも、リオのロード競技には当時BSアンカーの内間選手と元アンカー所属の新城選手が出場していた。良く知ってる選手がオリンピック日本代表に選ばれると感慨深いものがある……。

帯広でも夏祭り

16:00過ぎ、予定より早く帯広のビジネスホテルに到着  

2日目は約160kmという距離だったが、カンタさんは明らかに強くなっている。

明日は狩勝峠を登るキツイコースだが、何とかなるだろう。

ホテルで天然温泉に浸り、スッキリしたところで晩飯に繰り出す。

この日、前夜の美幌町に続き帯広町でも夏祭りを開催していた。。

(大通りは通行止、露店が長々と続く)

美味しそうな海鮮居酒屋を数軒発見したが、夏祭り中で明るいうちからどこも満席で1時間待ち。オッサンたちは店の前の露店で生ビールで乾杯し時間をつぶす。

(海鮮居酒屋でお刺身類を堪能)

  走った後の食事は格別旨い。大賑わいの町の中を、ほろ酔い気分で散歩する。

「アツシ、まだ食べられるか?」

「あたり前田のクラッカーです(笑)、“豚丼”楽しみです!」と、オッサンだけに通用する古いギャグを言う。

帯広は北海道有数の豚の産地である。昭和初期にうな丼の甘辛いタレをヒントにした“豚丼”が誕生したそうだ。帯広市民に愛される郷土料理のひとつで、市内には200軒以上のお店があるとのこと。店構えの映える店に入る。

(シメは豚丼で決まり!)

「いやぁ、想定以上に2日目楽しかったですね」

「アツシの計画だと見所ナシだったけど、さすが北海道だな、奥が深い!」

  2日目もトラブルなく160kmを走り切った。

翌日は富良野までの130km、しかし途中には旅の最大の難所“狩勝峠”を含む登りが4か所待ち構えている。

(カンタさん就寝前のfacebook)

練習して強くなった、安心しろ」と豪語するカンタさん。実力は本物なのか……、明日は、どうなるオッサンたち?

2年前