北海道ぶった切り(2) /網走から美幌

胃がん摘出の大手術を受けたアツシ、結婚したカンタさん、お互い人生の大きな出来事を経験した。16年の盆休み、いよいよ日本ぶった切りの最終地・北海道に出発する……。

4日間のぶった切りコース

出発3か月前、2人はいつもの居酒屋に集合した。アツシは考え抜いたぶった切りコースをカンタさんに提案した。

(出発は女満別空港に決める)

「今回はぶった切りしながら、北の大地を満喫するコースを作りました」

「女満別ってことは、網走が出発地だな、OKだよアツシ。ゴールは?」

「石狩にしました。そのまま札幌に移動して千歳空港から帰ります」

(意外と短かくなった、ぶった切りコース)

1日目:羽田~女満別空港~網走港⇒美幌 40km

2日目:美幌⇒帯広 160m

3日目:帯広⇒富良野 130km

4日目:富良野⇒石狩港⇒札幌~羽田 160km

全走行距離は約500kmの予定である。

(標高644mの狩勝峠が最難関となる)

さらにアツシは、詳しく説明した。

「1日日に一気に帯広まで走る手もありますが、少し長すぎます。網走監獄を見学後、美幌町で泊まりましょう。そうすれば2日目の距離が160kmになります。3日目は130kmとわりに短いですが、普段自転車ではあまり走らない内陸を通るので、見れるもは全部見ておきたいですからね……」

カンタさんも、初めて行く土地とのことで大賛成だった。

入念な計画書を作る

飛行機と宿の手配は終わったが、アツシには何かモヤモヤ感が残っている。見落としは無いか?

北海道は広い。トラブルやミスコースは行程に影響する。もう一度、コースMAPを入念に作ることにした。スマホで地図も確認できる時代だが、ネットとバッテリーはイマイチ信用できない。念のため4日間の詳細なコースMAPを作り上げ、プリントアウトして持つことにした。

(2日目美幌⇒帯広のMAP、コンビニを中心に目標地点を記した)

緊急時に信頼できる自転車店も調査した。

今回はカンタさんも事前練習に励んでおり、あとは暑さと天気の心配だけである。

出発の5日前、いつもの居酒屋で最終確認を行った。3年かけた壮大な日本ぶったぎり計画の最後だ。アツシの作ったMAPを見ながら飲みかわす、2人の高揚感は最高潮に達していった……。

(北海道ぶった切りはオッサンたちの集大成である)

北の大地に降り立つ

お盆休みの空港は混雑する。自転車を預けるオッサンたちは、時間にゆとりが取れる昼便で出発した。

(愛用のオーストリッチの輪行バッグで出発)

上空から日本列島を見つめながら、アツシは先輩タリンのことを想っていた……。

タリンは患っていた大腸がんの進行が進み、入院先から自宅に帰り、鎮痛剤を使った緩和療法へ移行したと聞いている。つまり末期がんで、もう長くはないってことだなあ……。

「カンタさん、タリンの最近の様子はどぉですか?」

「うちの嫁さんが2~3日に一回、タリンの様子を見に行ってくれてるよ、小康状態を保ってるけど、たまに痛みが激しくて苦しそうだって……」

「去年の沖縄ではとても元気だったのにね。でもアツシのFacebookに、ずっと“いいねボタン”を押してしてくれてますよ」

「オレにもだよ、北海道ぶった切り、すごい楽しみだってさ、頑張ろうぜ!」

2人の色々な想いを載せた飛行機が女満別空港に着陸した

(網走市内へはバスで移動し体力を温存)

市内連絡バスの最終停留所「網走港」には店舗が少ない。宅配が使えるコンビニが目の前にある一つ手前の「バスターミナル」で降車した。

旅慣れしてきたオッサンたち、黙々とバイクを組み上げていく。

(暑さを感じながらバイクの組立)

飛行機の貨物室は低気圧になる。預けたバイクのパンク防止のためタイヤのエアーを抜いておき、使い勝手のよいフロアポンプを持参して、組立て時に入れる。クリンチャーのチューブはブチル(人工ゴム)でも4日もすれば若干エアーが抜けるので、いつもの空気圧より0.3気圧程高めにセットする。

バイクを組み終えたら、背負う荷物とフロアポンプなど宅配で送る荷物に仕分け、最終宿泊地の札幌へ送った。もちろんホテルへは事前連絡済みだ。

「カンタさん、今回は最新兵器を投入します。このシマノのザック、いいでしょ!」

「おっ!かなり小さいね。それで容量は大丈夫なの?」

(シマノ社製、コンパクトな自転車用ザック)

今までアツシはドイター社の30リッターザックを背負っていた。ザックに荷物が多く入ると、万が一に備え、余計な物も入れてしまうのがボーイスカウトの悪い癖だ。

「容量は6リッターです。入らないものは不要ってこと。簡単に言えば強制切り詰めなんですけどね。あっ、寝る時に履くパンツは入れてますよ(笑)」

「オレもパンツは持ってるよ、寝る時は履かないけどな!ガハハハ」

札幌のキヨエちゃん

札幌に住んでいる女友達キヨエちゃんに連絡を取った。

アツシは、旅の途中で電車やバスに乗る場合に備え、緊急用の布製輪行バッグを携行している。しかし広い北海道では、予想もできないトラブルに見舞われるかも知れない。自動車でのピックアップサポートをお願いしてみる。

キヨエちゃんとアツシはロードレース会場で知り合った。彼女はツールド北海道が開催された初期に日本鋪道チームを応援したことがきっかけでレースのとりことなり、

かれこれ30年以上全国で開催されるレースを追っかけてる。アツシとはすぐに意気投合、一緒に応援したり、タイのチェンライMTBにも参加したことがある。facebook友達でもあり、ぶった切りの旅も良く知っている。

(影のサポートを快諾してくれたキヨエちゃん)

直ちにバックアップを快諾してくれた。心のよりどころとしては申し分ない。でも本音を言えば、キヨエちゃんと札幌で一緒に飲むのが楽しみだ。

「カンタさん、これで万全です」

「仲間は大事だよな、宴会できるといいな」

網走港をスタート

バイクの組み立てを終え、網走港までは1kmほどで到着。いよいよ、北海道ぶった切りのはじまりだ!

(網走港で、スタートコマネチ!)

15:00スタート  。。

網走をスタートに選んだのは網走監獄所を見たい!という願望から。市内から5km近くだが標高差40mを登った丘の上にある。しかし、ワクワク感で登り坂など気にならない。

(念願の博物館/網走監獄に到着)
(実際に使用されていた舎房にも入れる)

小一時間、博物館を堪能したオッサンたちは、今日の宿泊先美幌町を目指す。残り10kmの地点で日が暮れたが気にしない。

18:00過ぎにビジネスホテルに到着  

1日目は約40kmとウォーミングアップ的な距離で程よい疲労感。シャワーを浴びて早速晩飯に繰り出す。

この日、美幌町は夏祭りを開催していた。これはラッキーと生ビールで乾杯。

(夏祭り会場にて地元の人たちと軽く一杯!)
(小料理屋で新鮮なホッケやホッキ貝を堪能)

オーナーに見送られる

ホテルに帰ってくると、ロビーにいたオーナーがオッサンたちのバイクをまじまじと見つめている。

「昔、美幌町は“ツールド”のスタート・ゴール地点になったことあるんだよ」

北海道では「ツールド」と言えば「ツール・ド・北海道」のことである。

普通、レース名には「ツールド○○」と地名を入れるが、北海道では単に「ツールド」と呼ぶひとが多いようだ。

(出発をオーナーが見送ってくれた)

翌朝、6.00出発  

「内陸は暑いから道中気を付けて行けよ、頑張ってな!」

元自衛官だと言うオーナーに見送られながら2日目が始まった。ゴールは160km先の帯広を目指す。

北海道とは思えない猛暑のようだ。どうなるオッサンたち?

3年前