日本自動車史

━日本の自動車発展に貢献した先駆者たちの軌跡━

(佐々木烈 三樹書房刊)

自動車歴史考証の第一人者佐々木烈が、明治大正黎明期の日本自動車史を300頁にまとめた労作である。全国に散在する古い新聞や断片的な史料を丹念に調べ、また関係者の子孫を訪ね事実を検証した、類書のあまりない歴史書といえる。

本書は、第1章「日本最初の自動車技師 林平太郎の生涯」から始まり、国産化への道、そして乗合自動車へと発展していく過程が、時代背景の推移とともに13章構成で克明に記述されている。

各章とも、単なる歴史的事実の羅列にとどまらず、草創期に活躍した人々のエピソードを軸に記述されているため、読みやすく興味が湧く自動車史である。

白眉は、第3章「花のいのちは短くて、初の国産自動車製作者 吉田真太郎の生涯」であり、“吉田真太郎の名は日本自動車史に燦然と輝いている”と讃えている。

吉田真太郎は、自動車の渡来とほぼ同時期に、弟2人と共に自転車商社「双輪商会」を設立。米国製自転車「デートン」を輸入して、新聞連載「魔風恋風」のヒロインが乗る自転車として大ヒットさせた風雲児である。

真太郎はデートンにより明治自転車史に名を残したが、まもなく双輪商会を弟に譲り、自動車の世界に転身、初の国産自動車「タクリー」を開発する。その経緯は自転車史としても興味深い。

そのほか、明治末期~大正期にかけて活躍した商社「スイフト商会」が、自動車とともに英国製自転車「スイフト」を扱っていたエピソードが紹介されている。

また自転車曲乗りで日本を騒がせたウイリアム・ヴォーン、不世出の自転車ライダー鶴田勝三(吉田真太郎の三弟)、初の国産自転車をつくった宮田製作所の宮田栄助など、自転車と関わった人々の名が散見される。

━もちろん本書は自動車の関連本であり、いわゆる“自転車本”ではない。が、そう呼んでもよい親近感が湧く。

もともと自動車は欧州で自転車より50年早く発明されたが、後から生まれた自転車のチェーン駆動や空気入りタイヤなどの技術が移転された歴史があり、相互の関係は深い。

逆に日本では、自転車が慶応年間に渡来し、自動車の渡来は30年後の1898年(明治31年)である。同じ乗り物として自転車が先にあったため、欧米の歴史以上に自転車と自動車は密接に関わってきた。

その意味で、本書は自転車本としても意義ある側面を持っている。明治大正期の自転車史に興味を抱く研究者には一読を薦めたい書籍である。

なお、「自転車物語Ⅰ・スリーキングダム」(角田安正著/八重洲出版刊)のなかにも、本書と同様の明治大正期の日本自転車史が記述されている。

1か月前

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください