シェア自転車を集大成する

シェア自転車は、都市公共交通の一つとして世界に広く定着した。これは自転車にとって、MTB・BMX登場以来の、50年に一度といえる歴史的な出来事である。

その影響は、需要・製品・生産・流通・広告など自転車のマーケティング全般に大きな変化をもたらしている。これからその変化は一段と激しくなるであろう。解決すべき課題も多い。

本稿では、シェア自転車の将来を展望して、長期にわたった連載の最終回とする。

(その1)シェア自転車はシェアリングエコノミーか?

モノや空間を共有して効率的に利用するシェアリングエコノミーが世界に広がっている。日本でも、市場規模が今後10年で5倍以上、金額10兆円を超えるとの試算もある。

その流れに乗って登場したシェア自転車は、あたかも新しいシェアビジネスのように語られ、その成長に大きな期待が寄せられている。が、必ずしもそうではない。

もともとシェアビジネスとは、所有者と利用者双方から手数料を得る仲介ビジネスである。ところが今日のシェア自転車は、所有者が多数の自転車と多数の駐輪場を持ち、多数の利用者に有料で貸し出す。

この形態は、自転車誕生以来伝統的に存在してきた、営利目的の貸自転車業の大規模化に過ぎない。

問題はこの貸自転車に、都市公共交通と環境対策という2つの社会的理念が付加されたことである。この認識により、シェア自転車のあり方についての見解が分かれてくる。

社会インフラとして自治体などの社会資本が事業をおこなうか、単なる民間資本の営利事業であるか、この命題が採算などの多くの論議の前提になる。

(その2)需要が大きく変わり個人所有が減る

もともと自転車は個人財である。自転車に乗って目的地に着くと出発地まで帰らねばならない。都市交通の共用財であれば、目的地に乗捨てができる。個人で所有しなければ、駐輪場所やメンテナンスが不要になるメリットもある。

このためシェア自転車が増えれば個人所有の自転車は減る。とくに移動や運搬用の需要が大きく減る。

乗捨て自由の中国式シェア自転車がパリに進出したとき、自宅のそばに乗捨て、翌日また使用する例が多発したという。

—需要の変化は自転車全体に大きな変化をもたらす。

(その3)自転車そのものが変わる

不特定多数の共用を前提にすると、自転車の形状・仕様・性能・品質などに新しいものづくりの視点が必要になる。誰にでも乗れ、壊れにくく、安全性が増すことが条件になる。一方、操作の難しい機能は除外される。

例えば—、

〇乗りやすいフレーム(男女共用設計)

〇強度・防錆などの耐久性とメンテナンスフリー部品(タイヤ)

〇GPS付き錠前(スマート錠)

〇安全性の高い部品(ブレーキ)

〇軽量化(アルミ素材)

〇電動化(電動アシスト)

〇取り外しを難しくした部品(サドル)

〇操作の難しい部品は不採用(多段外装変速機)

また、一目でわかる外観差別化も重要である。

〇目を惹くデザインや統一カラー(車体)

(パリ・ヴェリブの独創部品とデザイン)

(中国モバイクの初期モデル。多くの工夫がされている)

—シェア自転車の機能追及により、新技術・新素材・新デザインが開発され、それが一般の自転車も変えていく。

(その4)生産の縮小と集中が始まった

多数の人による共用車は、損耗度が高く耐用年数が3年以下になる。その更新需要の増減は、生産体制に大きく影響する。

中国は、世界自転車年間総需要の7割にあたる8.000万台を生産する世界一の自転車国である。そのうち中国国内向けは2.000万台という。

シェア自転車の出現初期には、中国では電動自転車と自動車の普及により、一般の自転車生産が大きく減少していた。余剰生産力に困っていたメーカーは、数百万台単位の注文があるシェア自転車に飛びついた。

この巨大な供給力が、シェア自転車を一気に世界に広げた原動力でもあった。

ところが2017年をピークに、先行配置による仮需要が剥落、市場規模の縮小とともにメーカーの淘汰と集中が進んでいる。

—メーカー勢力図が大きく変わり、その影響は世界中のシェア自転車運営業者に及んでいる。

(その5)流通や販売が変わる

都市部の自転車小売店は、移動用需要に依存している。その顧客がいなくなり、また宅配などの業務用もシェア自転車を使う。スポーツ車中心に転換しても需要はあまり大きくない。もともと実店舗小売は、ネット販売に需要を奪われ後退している。

このような要因が重なり、シェア自転車に影響される多くの小売店が、世界中で転廃業に追い込まれている。

また、卸業などの中間的な業者も、運営業者がメーカーと直取引するため必要性がなくなっている。

—シェア自転車は流通構造をも変えていく。

(その6)新しい経営戦略が広がる

最も重要なことは収益性である。シェア自転車事業は、利用料収入だけでは採算が成り立たない。規模を拡大すればするほど利便性は高くなるが、反比例して収益性が悪化する。この両者のバランスの適正化は極めて難しい。

それでも自治体が関与する場合は、社会インフラとして補助金などで運営できるが、これとて永続的ではない。広告など付帯事業の収入を拡大しても、黒字化困難とわかれば、いずれは中止とか民営化の声がでる。

営利目的の民間の場合は、採算が合わねばいずれ破綻する。

—別の観点がある。

大手運営企業の多くは、巨大プラットフォーマーであるIT関連企業の傘下にあり、その消費者囲い込み戦略のなかにある。

シェア自転車利用者をビッグデータ化すれば、利用料だけでなくモバイル決済を始めとする新しい事業展開が可能になり、トータルでの収益化に目途が立つ。

新しい戦略はいろいろある—。

例えば、配車アプリによる自動車と自転車の連携サービス、あるいは自転車を使っての割引クーポンによる外食店誘導など……。

さらにシェア自転車の役割を、都市交通だけでなくレジャースポーツの世界に広げれば、観光インバウンド需要を含めた新しいサイクルツーリズムが事業化の対象になる。

電車や自動車を使って、郊外の駅や駐車場からシェア自転車に乗り換え、観光などの目的地に行く。

また、シェア自転車に本格的なスポーツ車を導入すれば、いろいろな形のツーリングが楽しめる。行動範囲が広がり社会交流や地域活性化につながる。

もっと単純化すれば、ショップなどでの小型営業も可能になる。

(沖縄・那覇国際通りの土産物店にある小規模シェア自転車)

—事業展開の可能性は限りなくある。

(その7)交通が変わる

都市交通において、電車やバスだけでなく、様々な移動手段をアプリでつなぐ構想がある。次世代移動サービスMaaSと呼ばれている。

環境負荷の少ない近距離移動のための個人用小型モビリティが、開発され実用化されている。

例を挙げれば、1~2人乗り超小型電気自動車・立ち乗り2輪車・電動キックスケーター・ペダル付き原動機付自転車・電動車椅子などである。これらは高齢化や過疎化の問題解決にも役立つ。

(1人乗り自動車 トヨタ車体「コムス」)

(立ち乗り2輪車「ナインポット」)

(電動キックスケーター「メガホイール」)

現在のMaaSには、日本では公道走行できないものも多いが、いずれ法規が改正されれば普及が始まる。

—シェア自転車も、MaaSの一環としてさらなる変化が起こるだろう。

(その8)新型コロナはシェア自転車を変えるか?

2020年に入り、世界は新型コロナウィルスによる、経済をはじめ社会生活へのダメージが計り知れない。

不要不急・外出自粛・在宅勤務・巣ごもり需要などの合言葉は、人々に行動変容をもたらし社会を変えていく。

シェア自転車も例外でない。海外都市の最新映像を見ていると、どこの国でもシェア自転車は片隅に追いやられ、乱雑に放置されている。

世界の自転車生産も、サプライチェーンの寸断により、過度な中国一極集中が変化して、それぞれの国に回帰するかもしれない。

資本力の脆弱なシェア自転車スタートアップは、資本調達が難しくなり、存続できなくなるかもしれない。すでにその兆候は現れている。

だが、自転車はもともと屋外を走る健康的で反公害の乗り物である。健康づくりにも役立つ。

コロナ感染を避けるための、いわゆる“3密(密閉・密集・密接)”ともそれほど関わりがない。むしろ人混みを避け、バスや電車に代わる移動手段として再評価される。事実、通勤用自転車が増加している。

—いずれコロナ騒動は終わる。

そのとき、シェア自転車ひいては自転車そのものが、真価を発揮するはずだ。

 

5か月前

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