2013年夏、アツシとカンタさんは構想35年に及ぶ列島ぶった切り計画を完遂した。しばらくの間オッサンたちは、心からの満足感に満たされていた。が、しばらくすると、満喫した泊りがけロングライドの楽しさを思い出し、次なる冒険を待ち望む。
新たな計画は?
都内某居酒屋にて
帰京2カ月後、アツシとカンタさんはいつもの居酒屋で落ち合った。
アツシが言う。
「お前らアホだって、Facebookではすごい反響でした。でも、楽しそうだって」
「アツシもか、オレも周りから相変らず馬鹿やってるなって(笑)」
「しかしこんなコメントがありましたよ」
—「2人がぶった切ったのは本州だ。日本列島ではない!」と。
(2人が描いた日本列島ぶった切りのイメージ)
もともと日本は4島からなる島しょ国である。中央部を走破すれば日本横断に間違いない。しかし、それは本州横断に過ぎないと言われれば、それもそうだろう。
「よし!それなら北海道、四国、九州も切ってやろうじゃないか!」
たちまち2人の考えは一致する。
では、最初はどこにする?
北海道は……でかい!相当の覚悟が必要だ。まずは走りやすそうな四国がよいだろう。
四国のぶった切りルートは?
四国は横方向に山脈が連なっている。瀬戸内海から高知へと縦に走ってもぶった切りになるが、距離が短すぎて冒険心に欠ける。東京との往復は、時間短縮のために空路を前提にしよう。
(四国は外周が主な陸路となっている)
アツシが提案した。
「徳島空港に降りて、高知を通って愛媛の八幡浜へ、帰りは松山空港から飛びます。変則的ですが、これでもぶった切りでしょう?」
(四国ぶった切りルート計画)
「完璧じゃあないが、これしかないな。何より緩い登り勾配が気にいったよ」
確かに、川沿いのコースや鉄道に沿った国道は勾配が緩い。特に鉄道沿線はそれが顕著だった。
ようやくコースが決まった。次は日程だ……。
カンタさん、ロードバイクをゲット
「アツシ、ロードバイクが欲しい。この前は沢山のロードバイクに抜かれたからな」
前回は手持ちのMTBで我慢したが、こんどの決意は固そうだ。
「コルナゴか、デローザか、やっぱりイタリア車はロード乗りの憧れだよな」
「……オレの仕事、知ってますよね」
「わかってるよ!アツシの会社のアンカーも、候補に入れてるからさ」
—10年ほど前、アツシが行きつけの東京晴海のセオサイクルに行った。セオサイクルは関東一円に出店する大手自転車店チェーンである。
見ると、なぜか店頭でカンタさんが店長さんと談笑している。
「カンタさん、店長さんと知り合いなの?」
「うちの会社がアウトドア用品の直営店を建てたから、毎日販売応援に来てるの、たまたま隣が自転車店だったわけよ」
知らぬ間に3人は知り合い同士だった。カンタさんのあのMTBは、セオサイクルで購入したそうだ。
—そのころアンカーブランドのロードバイクはモデルチェンジの時期となっており、旧モデルの廉価斡旋があった。カンタさんに勧めると是非欲しいとのこと。
カンタさんは入手したアンカーの調整をセオサイクルに依頼した。さすがプロショップの調整だ。走り出したらすぐわかった。乗車ポジションは問題なさそう。実に快適だ……。
霞ケ浦でテストライドする
2014年春、カンタさんのロードバイクの練習を兼ね、2人は茨城県の霞ケ浦1周ライドに出かけた。
背後の筑波山を含む一帯は、自転車啓蒙を進めていて、随所でインフラ整備中。案内看板も充実して平坦で初心者も走りやすい。
(霞ケ浦の湖畔沿いは信号も少ない)
「あっ、ここだ!アツシそこを左に曲がって!」
突然、霞ケ浦周遊コースから外れる。ここを練習場所に選んだのは、カンタさんの希望。アツシに何か見せたいものがあるらしい。
それは予科練平和記念館だった。予科練とは海軍飛行予科練習生のことであり、旧日本海軍の熟練飛行士訓練施設が記念館になっている。陸上機と海上機の両方が訓練されていたそうで、その歴史を展示している人気スポットである
(旧日本軍予科練跡地、平和記念館にて)
「これを見ろ、狂気の凶器だよ。凄ぇもの作るよな、人間魚雷だぜコレ」
回天と名付けられた潜水艦、爆弾を大量に積み、人間が操縦して敵艦に体当たりする特攻兵器だ。話では聞いたことがあったが本物が展示されているとは知らなかった。
カンタさんは軍事関係も好きで詳しいのだ……。
(練習を決意、カンタさん)
四国ぶった切り計画をやり直す
「オレ気付いちゃった、アツシわかるか?」
「……わかりません」
「まだまだ視野が狭いな。地図を見ろ、行けるだろ!フェリー使って大分に渡り熊本まで、一緒に九州もぶった切るぜ!」
カンタさんは、いつも突拍子もないことを考えつく。さすが少年の心を持ったオッサンだ……。
—四国から九州まで走破するぶった切りルートへの突然の変更である。
四国の八幡浜から海路で大分の臼杵港に行く。そのあと阿蘇山の脇を抜けて熊本港にいたるルートである。九州の距離は短いが、真ん中を通る立派なぶった切りだ。
(四国から九州へ、連続ぶった切りルート)
スケジュールは3泊4日。四国340km、九州150kmを走る。
初日は、東京で仕事を終えてから羽田発の最終便に乗り、徳島空港近辺で前泊する。2日目は高知泊、3日目は大分へ渡って臼杵港付近に泊まる。最終日は熊本に抜けて空路帰京する。
計画はできた。後は出発を待つだけ……。
トラブル発生
出張が入るやら欠航するやら
旅に出る4日前のことだった—。
「アツシさん、長野のイベントに泊りで行ってくれませんか?」
まじっすか?
幸いイベントは出発日の昼過ぎには終わる。が、自転車を取りに帰宅したら夕方の飛行機に間に合わない、長野から羽田へ直行する必要がある。通算すれば4泊5日の日程になる。
そんな事情で、輪行バックを担いでの出張になった。
アツシ愛用の輪行バッグはオーストリッチ社のウレタン仕様OS-500。前後輪とペダルを外しハンドルを曲げれば大抵のサイズが入る。ただしサドルが高い人は抜く必要がある。飛行機に預けるときは、荷扱いで変速機が曲がる定番トラブルを防ぐため必ずリヤ変速機を外して使っている。
(長野から羽田へ移動する)
(輪行バッグは預け荷物となる)
—カンタさんと合流、チェックインをすませターミナル内を歩いていると、物凄いゲリラ豪雨が降り始めた。
「一時的に離陸を停止しました。天候回復までお待ちください」とアナウンス。
ゲリラ豪雨ならすぐ回復するだろう、さほど心配はしていない。
(のんきな気分で搭乗を待つアツシ)
待つこと1時間……ようやくアナウンスが入る
「徳島行きの最終便は、欠航になりました」
豪雨は弱まったのに、なぜ???
飛行機が飛べても、徳島空港の着陸制限時間22時までに着陸できない。地方空港ではよくあることらしい。
すぐ明日の早朝便に振替、速攻スマホで蒲田のカプセルホテルも確保した。
オッサンたちにはトラブルが付き物だが、今回は出発すらできなかった(笑)
カンタさん、明日はトラブルなしを祈りましょうね……(笑)