公共都市交通としての大規模シェア自転車が登場して10数年、その将来に注目が集まっている。大きな課題は、巨額の赤字を生む採算性と、都市美観を損なう駐輪対策である。いま、その解決の道を世界は探している━。
シェア自転車には4つの形態がある
世界には、国情の違いや発展の経緯により、おおよそ4つの方式がある。無人営業、カード(スマホ)決済などの共通点もあるが、主な違いは駐輪場(ポート)と操作システムにある。
1.フランス・ヴェリブ式
操作パネル端末機と駐輪器具を備えた大規模ポートを都市部に多数設置する方式。初期投資大きく、欧米大都市の自治体で実施され、小規模だが日本にもある。
(端末機と駐輪器具を備えた広いポート)
2.中国・スマホ式
操作パネルを自転車本体に取り付けスマホで操作するため、特別なポートが要らなく大量駐輪できる。初期投資が小さく、駐輪規制の緩い中国や米国の民間企業が実施している。規制の強い日本には不向きである。
(駐輪表示と区分け線引きだけの路上ポート)
3.日本・ドコモ式
ヴェリブ式と中国式の折衷方式。操作パネル付自転車のため簡易ラックのある小スペースのポートでよい。公営・民営双方に向き、日本の主流である。
(簡易駐輪ラックを装備した小スペースポート)
4.従来のレンタサイクル式
ポート1~2カ所の単拠点有人営業方式。ポートは倉庫兼用が多く、自転車は従来型も操作パネル付きもある。小規模サイドビジネス向きであり、世界の観光地に散在している。
(観光地のホテル裏の置き場兼用ポート 自転車は従来型)
シェア自転車は儲からない。巨額の赤字に耐えられるか?
これら4つの方式のなかで、ヴェリブ式と中国式は巨額の赤字を出している。ドコモ式は小規模であり赤字も小さいが、まだ採算ラインは見通せない。採算に合うのは従来型だけである。
具体例を述べる━
ヴェリブ式の多くは公共交通事業のため、赤字でも続けられている。
パリの例では、ポート1.800ヵ所、自転車25.000台、きわめて大規模である。費用は利用料と広告収入で賄う計画がはずれ、毎年20億円の補助金を支出している。赤字解消は困難だろう。
中国式の規模はもっと桁外れ、赤字も巨額である。
ポート不要の手軽さから、100社ものスタートアップが全中国に2.500万台、北京だけでも220~230万台(のちに上限190万台に規制)もの自転車を先行投入、赤字無視のシェア争いの結果、大半が淘汰統合された。
19年8月現在では、360都市1.950万台に縮小されたが、まだ過当競争の感は免れない。
美団点評に買収された中国最大手モバイクの赤字額は、18年▲1.400億円、19年第1四半期▲220億円である。その巨額に驚かされる。
美団点評は、「20年の主要投資はモバイク部門」と発表したが、黒字化は容易ではない。
ドコモ式も小規模ながら赤字が続いている。
ドコモバイクシェアの採算は、2017から3年間の各年売上467→954→1.431百万円と伸びているが、純利益は▲657→▲446→▲608百万円である。
結論として、従来型小規模レンタサイクルを除き、シェア自転車事業は決して儲かるビジネスではない、と言うことであろう。
採算改善のために(1)
回転率を上げる
利益率を向上させるために必要なことは、まず回転率を上げることである。
モバイクの事例をみる━
18年の北京の全利用回数は1日平均0.7回とされているが、19年には0.84回に向上した。モバイクだけなら1.7回である。
しかし向上したと言っても、パリ10.0回/ニューヨーク4.9回/台北7.1回(15年調査)に比べて著しく回転が悪く、改善の余地は大きい。
また、利益率向上は利用料値上げでもできる。モバイクは15分0.5元から1元に値上げこれを他社も追随、採算向上に役立っている。因みにヴェリブは、電動アシスト車新投入により値上げしている。
とはいえシェア自転車は、公共交通としてバスなどとの競合があり、自ずと単価引き上げには限界がある。お手の物のGPS位置情報分析による効率よい自転車配置が回転率向上の鍵になる。
採算改善のために(2)
駐輪場を変える
シェア自転車の大量放置車は社会問題になっている。とりわけ中国式は乗捨て自由とされ世界の批判を浴びた。今でもモバイクは、「19年1年間で盗難破壊により20万台を喪失した」と発表している。
━19年ofoは、返却専用ポート設置方針を打ち出した。
もともと中国式といえども駐輪を全く考えなかったわけではない。路上のポートに駐輪可を示すPマークがあり、周辺に簡易駐輪器具が設置されていた。
しかし、利用者はほとんどこれを無視、返却時には所かまわず路上に放置した。このため乗捨て自由が一般化した。
その対策としてofoは、Pマークとともに1台のofo車をポートに固定して目印とし、その周辺を専用駐輪スペースと規定した。そのポートを北京だけでも2万カ所設置する。
それだけでなく、利用者がアプリで検索すれば返却ポートが指定されるが、指定外の駐輪が重なれば、管理手数料(最高20元)を徴取する。
この新ポート設置は、借りるときの空車探しを簡便化して利用率を向上させるとともに、あちこちに散在する放置車を減らして集荷コストを下げ、併せてシェア自転車の利用マナー向上を意図したものである。
事実ofoの発表では、駐輪率があがって違反率は下がっているそうだ。とはいえ、多数のポート設置とその管理は採算向上の阻害要因になりかねない。ポート不要の中国式は今や正念場を迎えている。
米国のシェア自転車新戦争
ライドシェアのウーバーとリフトの戦い
2018年、米国ライドシェア最大手「ウーバー(Uber)」と「リフト(Ryft)」は、相次いでシェア自転車に進出した。
日本でもウーバーイーツやタクシー配車を手掛けるウーバーは、ニューヨークやワシントン8都市でシェア自転車を運営するスタートアップ「ジャンプバイクス」(JUMP Bikes)を2億ドル220億円(1億ドルともいう)で買収した。
(ウーバーが買収したジャンプバイクス車)
ウーバーは「短距離移動サービスとして、自転車は自動車より効率的」と、電動キックボードを含めて総合的モバイルシェアリング事業を志向するという。
━ライドシェア2位リフトは、シカゴやサンフランシスコなど9都市3万台を擁するシェア自転車の草分け「モチベート」(Motivate)を推定2.5億ドル(270億円)で買収。サンフランシスコの「Ford Bike」やニューヨークの「Citi Bike」
も傘下に収め、米国最大のシェア自転車事業者になった。
リフトは「シェア自転車により都市交通における革命を起こす」と述べている。
(リフトが買収したモチベート車)
新しい戦いが始まった
米国ウーバーとリフトは、欧州進出を含めライドシェアを軸にした移動に関する様々なサービスを展開する方針だ。
中国ではモバイクが美団点評に、ハローバイクがアリババに、ブルーゴーゴーがライドシェアの滴滴出行に買収された。独立を保っているofoもいずれIT企業と連携する。それぞれITプラットフォーマーの消費者囲い込み策の一翼を担うはずだ。
日本でも、NTTドコモやソフトバンクのモバイル機能を活かして小規模拠点の全国展開を一段と進め、黒字化を目指すであろう。
━今や、古くからのレンタサイクルは新しいシェア自転車へと止揚(アウフヘーベン)した。これから新しい時代の新しい戦いが始まる……。