“備えあれば憂いなし”
自転車保険義務条例広がる

近年自転車事故を起こした場合、被害者に支払う損害賠償金が思いもかけない高額になる事例が相次いでいる—。

2013年、兵庫県の小学生男児が自転車に乗って高齢の女性をはね、被害者がそのまま寝たきりになる自転車事故が発生した。事故は損害賠償訴訟になり、神戸地方裁判所は男児の母親に賠償金9.500万円の支払いを命じた。

この事故をきっかけに、15年兵庫県は自転車利用者や保護者に対し、都道府県で初めて自転車保険への加入を義務付ける条例を制定した。

その後も各地の自転車事故裁判で、数千万円から1億円にのぼる賠償金を命じる判決が相次いだ。しかも判決はでても、高額のため加害者が支払えないケースがあり、被害者は二重の苦しみを味わうことになる。

このため、全国の都道府県が加入義務条例を相次いで導入した。

現在施行されているのは、兵庫・大阪・滋賀・鹿児島・京都・埼玉・神奈川・静岡・長野・東京(20年4月施行)の10自治体である。

—自転車保険は、自分の怪我を補償する傷害保険と、相手への賠償責任を補償する保険から成立している。

この保険は、損害保険会社が専門商品として販売していて、月100円ほどの保険料で簡単に加入できる。補償額は1億円とする例が多い。

また、自転車販売店で有料の点検整備を受けて加入する「TSマーク付帯保険」や、学校を通じて加入する「こども総合保険」にも、事故に対応できる特約が付いている。

こうした特約は、一般の火災保険・自動車保険・クレジットカードなどにも付帯されている場合があり、自転車事故を含めて賠償責任をカバーできるが、これらの複数の保険や特約があっても、賠償額を超える保険金は受け取れない。

先ずは、個人賠償責任特約の有無を調べ直し、自転車保険への加入を検討する必要がある。

—歴史を紐解くと、本格的な自転車保険の発祥は、1975年にブリヂストンサイクルが打ち出した「ロビンフッド」である。このネーミングは、購入した自転車

1台に1冊添付された証書「ロビンフッド手帳」に由来する。

(1975年にスタートした「ロビンフッド保険」表紙)

この保険は、利用者の傷害保険のほかに、盗難保険や品質保証が付いた総合的な制度であった。

自己の傷害補償制度をはじめ、新車購入後3年間は無償修理ができる品質保証制度、価格の6割負担で新車を再購入できる盗難補償制度など、メーカーが総合的に自転車利用者を支える画期的な制度であった。これは当時の自転車が貴重な耐久消費財であったことの証でもあった。

ただし、今日のような賠償責任を補償する保険は付加されていない。自転車事故に対する時代の認識の差であり、当時としては相手の賠償までは及びもつかないことだった。

その後盗難については、6割負担の制度に加えて、損害保険会社の別売りの全額補償盗難保険との2本立てになった。だが、相次ぐ盗難発生による補償額の増大に保険会社が音を上げ、5~6年後には中止になった。同じころ、ロビンフッドも自然消滅した。

そのためか、今日の自転車保険には盗難補償はついていない。

—今日、死傷などの重大な自転車事故で、運転者が保険に加入していた割合は60%という。

自転車の都市交通に果たす役割がますます増大している昨今、自転車に乗るだけでなく、万一に備えての社会への心配りが必要な時代が到来している。

10か月前