レンタサイクル日本史(4)
ドコモ×ソフトバンク戦争

世界のトレンドになった都市交通に自転車を使う試みは、ようやく2010年代に日本でも盛んになる。先行する自治体に加えて、多くの民間スタートアップが起業した。そのなかでNTTドコモとソフトバンクの伸長が目覚ましく、市場は2社対決の様相を呈している。

この2社の戦いは、携帯電話事業の形を変えた戦争であり、中国におけるアリババ対テンセントの戦いを彷彿させるものがある……。

レンタサイクルからシェア自転車へ

世界中に普及した都市型レンタサイクルは、シェアリングエコノミーの一形態として考えられている。特許庁の資料には「shearing system for bicycle」と表現され、中国語でも「共用(または共享)自行車」という。

日本でも「シェア自転車」「シェアバイク」「シェアリングサイクル」など新しいネーミングが登場している。

それらを背景に、2018年国土交通省は30年以上使い続けた「コミュニティサイクル」の呼称を、公式に「シェアサイクル」と変更した。

——本稿でも、今後は「シェア自転車」に統一する。

その理由は、「サイクル」は自転車とモーターサイクル(またはオートバイ)の両方の意味があって紛れやすい。また「バイク」はオートバイとの誤解を招きやすいからである。

NTTドコモの新システム

2010年前後から、全国の自治体がシェア自転車の実証実験を開始した——。

シェア自転車にはいろいろな形態があったが、駐輪場(ポート)が必要なため、日本ではパリ・ヴェリブ式が広く普及するかと思われた。

——そこに携帯電話技術を応用したNTTドコモが、ヴェリブ式の概念を取り入れながら、新しい工夫を加えた新システムを発表した。

(写真:NTTドコモ発表資料より)

ドコモ式は、自転車本体に通信・GPS・遠隔制御機能を一括し搭載。これにより予約・貸出・開錠・返却・決済が容易であり、スマホや交通系ICカード決済も可能になる。

ヴェリブ式との最大の違いは、ポートには1台毎に簡易収納ラックと小さなビーコンを設置すれば、コストの高い端末機が不要なことだった。このためポートは小スペースで済み、工事費が大幅に削減できる。

自転車本体とビーコンに取り付けられたセンサーは、自転車がポート外におかれた場合には感知しない。返却ボタンを押しても作動せず、借りた人の課金が続く仕組みである。勝手な乗捨てや盗難防止に役立つ。

ドコモの自転車はすべて電動アシスト付ミニサイクルとし、車体は赤塗り一色、後輪に広告スペースを設けるなど、ヴェリブ式のアイデアを取り入れていた。

利用料金は30分150円・30分毎に100円追加、月会員基本料金2.000円で30分まで無料であった。これもヴェリブ式を参考にしていた。

ドコモバイクシェアの誕生

2015年、NTTドコモは子会社「ドコモバイクシェア」を設立、シェア自転車の事業化を図る。

まず、自治体のコミュニティサイクルの運営受託からスタートした。

東京都の例を挙げれば、それまで別々だった都内10区のシステムを共通化した。これにより区をまたがる利用者の利便性が一段と高くなった。

自治体と組むドコモの大きな利点は、路上の駐輪場建設を許可した改正道交法により、公道での多数のポートづくりが容易になったことである。

この新システムを掲げたドコモは、多くの自治体に採用され、一躍シェア自転車トップの地位を築いていく……。

ソフトバンク参入とその戦略

同じころ、ofoやモバイクなどの中国ITスタートアップ企業が開発した、乗捨て自由・スマホ決済の中国式が世界を席巻していた。

その流れを汲むソフトバンクは、駐輪場が必須条件の日本の事情に合わせ、ドコモ式を上回る簡便でコストの安い新システムを開発、先発のNTTドコモを追う一番手になる。

システムの特徴は、市販車にスマートロックとバッテリーを取り付けるだけ。スマートロックには、データ通信に対応するSIMカードと位置を把握するGPSを内蔵、スマホだけですべての処理が完結できる。

このため、自転車は車種を選ばず既存車でよく、ポートは一定の駐輪スペースがあればよく、返却はどこのポートでもできる。

対するドコモの専用電動アシスト車は、1台10万円を超えると推定され、ポート設置費用も含めてソフトバンクは低コストだった。

——2016年、ソフトバンクとヤフーの子会社Zコーポレーションが出資して、このシステムの開発・運用・提供をする会社「オープンストリート」を設立。シェア自転車を新交通インフラと定義付け、「ハローサイクリング」という統一呼称のもと、シェア自転車事業に参入した。

(イエローカラーのハローサイクリング公式ロゴ)

ソフトバンクは、自転車小売りチェーン店サイクルベースあさひ、自転車輸入商社シナネン、JTB子会社などの協力のもと、既存のシェア自転車運営企業や自治体の参加を募った。

それぞれが、ハローサイクリングの看板を掲げてポートを相互利用、スマートロックとスマホによる予約から決済までを共通化、地域の独自性を活かすことができ加盟しやすかった。

いわば、フランチャイズチェーン方式に似た、システムを共通するハローサイクリング連合体をつくる戦略である。

料金設定の統一的な考え方としては、基本料金と月額料金を無料とし、使用時間に応じた料金を15分毎に60~70円、1日定額1.000円に設定した。ヴェリブ式やドコモ式に比べ低料金である。

——ハローサイクリングの一例として、東京・中野の駐車場業者が運営する「シェアペダル」がある。

(ハローサイクリングの看板のあるシェアペダル「アリオ葛西店」:広報資料より)

また埼玉・さいたま市の実証実験「エコナビ」のように自治体と組んだ例もある。

——ハローサイクリングは、いわば看板と自転車を置くだけだから、駐輪スペースさえあれば誰でも容易に展開でき、幅広い業種に広がっている。

(例)

*コンビニ「セブンイレブン」

*不動産系の「大東建託」や「アパマン」

*電鉄会社「阪神電鉄」など。

——2019年ソフトバンクは、このシステムをモーターサイクルに展開、ホンダと提携して「ハロースクター」を開始している。

ドコモ対ソフトバンクの競合

現在の勢力図は—

設立

ポート数

自転車台数

ドコモ

(うち東京都10区連合

2015

1.300ヵ所

690

12.000

7.500

ソフトバンク

2016

2.500ヵ所

10.000

(2019年9月末推定)

両者の戦いは、全国の自治体やいろいろな業種を取り込みながら、一段と激しい戦いに突入していくだろう……。

6か月前