勇気凛々

(高杉良 角川書店刊)

本書は、自転車メーカー「ホダカ物産」を、一代で築いた武田光司を主人公にする企業小説である。

作者高杉良は、日本経済界に広く題材を求めて、独自の視点から企業や企業人を掘り下げ、数多くの作品を著わしている経済小説の巨匠である。

そのなかで本書は、主人公が一介のサラリーマンから独立して、成功するまでを描いたビジネスマン小説とでも呼ぶべき作品である。いわば今はやりのスタートアップのサクセスストーリーである。

物語の舞台は、70年代の自転車ブームの始まりから、90年代の自転車工業衰退の時期までであり、ホダカ物産創業20周年の晴れの式典で小説は終わる。

主人公は、10年間働いたラジオ放送局を退職、自転車専門卸商社を起ち上げ、異端児として業界から疎外されながら、経営者として逞しく成長していく。文中、多くが実名で描かれ、総合スーパー「イトーヨーカドー」と創立者伊藤雅敏なども登場して、読者に親近感を与えている。

—かつて日本の自転車メーカーには、工場を持って自転車を製造する「工業型」と、部品をアッセンブルして組み立てる製造問屋方式の「商業型」という、2つのグループが存在していた。

自転車生産台数の約3割をしめていた商業型は、戦後150社以上も乱立して激烈な低価格競争を繰り広げた。

そのシェア争いのカギとなったのは、第三ルートと呼ばれたスーパーやホームセンターなどの新流通ルートへの販売と、台湾中国輸入車の活用であった。

ホダカ物産は、既存の慣習にとらわれず、この2つの戦略を果敢に展開、4大商業型の一角としてトップグループを占める。

この過程が詳細に描かれていて、自転車史や自転車産業、流通構造に興味のある読者には、裏付けのあるストーリーのなかで、生々しく当時の実態を理解することができよう。

すでに消滅した商業型に触れた文献・史料の少ないなか、本書は一般向けフィクション小説ながら、事実に基づいた背景を理解すれば、自転車本としても参考になる書籍である。

「高杉良経済小説全集(角川書店)」(1996年刊)に初出され、単行本化された本書のほか、文庫本(角川文庫・講談社文庫)にもなっているので、入手は容易である。

一読を薦めたい図書である。

なお、「自転車物語Ⅱ・バトルフィールド」(角田安正著/八重洲出版刊)のなかにも、「量販店専門ホダカ/武田光司の成功物語」として収録されている。

11か月前