自転車日記

(夏目漱石 青空文庫 青空書院刊)

明治期の著名な文学者、夏目漱石の初期の小作品である。1903年ホトトギスに掲載されたエッセイというべき著作であり、英国留学中に自転車に乗った体験を、ユーモアたっぷりに描いた文字通りの自転車本である。

━1900年(明治33)からのロンドン留学で、神経衰弱が激しくなった漱石は、気分転換のために下宿の婆さんにすすめられて、自転車に乗る練習をしたりサイクリングに出かける。悪戦苦闘の末、原文に「大落五度小落はその数を知らず、(中略)その苦戦云うばかりなし、しかしてついに物にならざるなり」と表現したように、うまく乗りこなすことができずに終わる無邪気な話である。

平易な題材ながら自由闊達な筆さばきは面白く、人も自分も笑いものにするユーモアのスタイルは、同時期に連載開始された名作「吾輩は猫である」に繋がっていく。

この作品を自転車本として読めば、自転車の形態、乗り方、市民の関心、サイクリングの流行など、20世紀初頭の自転車王国イギリスの状況がまざまざと理解できよう。

自転車ファンなら必読の「1冊の本」である。短い作品だけにネットで「夏目漱石の自転車日記」と検索すれば、原文や私訳文を読むことができる。また「漱石全集第12巻」(岩波書店刊)にも収録されている。

なお、拙作「自転車物語スリーキングダム(戦前編)」(八重洲出版刊)にも、志賀直哉「自転車」と並び詳述している。

(コメント:角田安正)

 

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3日前