自転車の文化史

━市民権のない5.500万台━

(佐野裕二著 文一総合出版)

本書は、既に本欄で紹介した専門書の大作「自転車の一世紀━日本自転車産業史━」(自転車産業振興協会編 1973年刊)を、一般読者向けに書き直して、1985年(昭和60)に刊行した姉妹本である。文化風俗史中心にまとめてあり、いわば“自転車文化の一世紀”とも言える古典的自転車本である。

それもそのはず、著者は「自転車の一世紀」の編集メンバーの中心人物である。本書でも多くの文献・資料に基づき、明治以来100年にわたる自転車文化史を詳述している。

「自転車の一世紀」と違うのは、本書には「市民権のない5.500万台」という副題がある。「自転車の一世紀」は、モータリゼーションの進展で路面電車が撤去され、都市交通の足としての自転車需要が増え始めた初期の記述である。本書はその10年後、予測通り輸入車が大量流入、100万台の放置自転車が問題視された時期に出版されている。比較すれば、この違いは面白い。

━また、自転車技術の発展史についても詳しく触れている。

著者には「発明の歴史 自転車」(発明協会刊)という著作がある。技術に詳しい作家と思いきや、第二次大戦にフランス語通訳としてベトナムに従軍、復員後はルポライターとなり、雑誌編集に携わりながら伝記・社史を執筆したという。

その経歴からもうかがわれるように、それほど多くはない日米欧の自転車関連資料を地道に発掘し、綿密に記述した努力が、後世の貴重な記録となって本書にまとめられている。

━出版した「文一総合出版」は、自然科学の学術書や野鳥誌を専門にする堅実な出版社であり、本書の信頼度を増している。

なお、本書は文庫本に要約され「中公文庫(中央公論社)」にも収録されている。(コメント:角田安正)

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1年前