レンタサイクル物語17
中国式シェア自転車“二強物語(7)

新時代が到来した

いつものように、中小企業経営者に中国通の友人が語る━。

「2018年は、16~17年にピークを迎えたシェア自転車の大転換期でした」

100社にのぼったサバイバル戦争は終わりを告げ、生き残った専業のスタートアップ企業はofoぐらいになった。代わって表面に出てきたのが、アリババ・滴滴出行・美団点評たち巨大IT企業である。

IT企業の基本戦略は、O2O(オンライン・ツー・オフラインの略)マーケティングである。ネット上の情報でネット外での購買行動を促す戦略である。例えば、ネットで割引クーポンを提供、位置情報を伝え消費者を店舗に誘導する。IT企業はプラットフォーマーとして、シェア自転車利用者をビッグデータ化すれば、O2Oにより事業多角化ができる。

中国スタートアップの多くは、“ネット2強”と呼ばれるアリババとテンセントの出資を受け、ときには買収もされる。シェア自転車も例外ではない。

アリババがofoに、テンセントが滴滴に出資、その滴滴がofoに出資。またテンセントは美団とモバイクに出資、その美団がモバイクを買収するややこしさだ。“ofo対モバイクの戦い”が“アリババ対テンセントの戦い”と評された由縁である。

「もはやIT企業抜きではシェア自転車を語れません。個別に説明しましょう……」

経営不安続くofo

2018年に経営危機に陥ったofoは、海外事業撤退・配置台数削減などの減量経営に努力、どうにか首位を維持している。資本的には、大株主のアリババと滴滴の狭間で、アリババ系と言われながらも、独立路線を歩んでいる。

もはや“1カ月乗り放題サービス”を打ち出し、正規料金20元を1~2元に値下げして、一気に他社を蹴落とした昔日の勢いはない。「街中からofoの黄色い自転車が減っている」と伝えられている。

今でも問題が続出、自転車購入費未払いやデポジット返還請求が起こるたびに、訴訟の矢面に立たされている。ちょっとした事務所の移転でさえ、「すは、破産の前兆か!」と騒がれる有様だ。

ごく最近も、あるデポジット債権者が裁判所にofoの破産申請をしたところ、マスコミ報道で大騒ぎになった。ofoは「一部でデポジット返還が滞っていることは申し訳ないが、今後も営業を続ける」と、今までと同じ決まり文句で釈明している。

米中貿易戦争が勃発、一段と中国経済が減退するなか、ofoもこれまでのような潤沢な資金調達は困難になる。巨額の負債を抱え「経営破綻が現実味を帯びてきた」と噂されている……。

アリババは本格参入した

アリババは第3位「ハローバイク(Hellobike)」を買収、ofoへの出資と併せ、シェア自転車事業への進出を鮮明にした。

16年後半に起業したハローバイクは、先発2強と異なり小・中規模の都市中心に事業展開する戦略をとった。環境対策として自転車交通を推進したい、500万人クラスの地方都市の誘致にも応じ、300都市を中心に利用者登録2億人を擁している。

18年5月のある調査によると、稼働台数ofo300万・モバイク250万に次ぐ50万台とされる。2強と離れているが、地方都市ではシェア50%と言われ、トップスリーの一角を占めている。

(勢ぞろいするハローバイク)

━資金力のあるアリババを後ろ盾にしたハローバイクは、未返還問題が表面化したとき、デポジット免除サービスを積極的に打ち出した。

「アリババにとっても、デポジット免除には別の効果がありました」

アリババは、「芝麻信用(ゴマ信用)」と名付けて、個人や法人の信用度を数字で格付けて公表している。ゴマ信用スコアは5段階(350~950点)に別れ、点数が高いほど社会的に評価され、広く使われている。

(ゴマ信用マーク)

ハローバイクはゴマ信用を活用して、上から2番目のランクのスコア(650点)以上を持つ利用者に、デポジット免除の特典を与えた。

「免除制度は高いスコアを持つ人へのメリットになり、ゴマ信用の価値を高めます。アリババがシェア自転車に力を入れる背景には、こんなこともありますね」

「それでデポジット問題は解決した?」

信用度の高い利用者が増えたため、利用率が増加、自転車の損耗率も下がった。今ではデポジット禁止規則も生まれ、デポジット免除が一般的になっている。ただ、ofoのように過去のデポジットの未返還トラブルはまだ残っている。

「それにしても、ゴマとは面白い名前ですね」

「千夜一夜物語の『開けゴマ!』に由来するそうです。アリババという名前も『アリババと40人の盗賊』からと聞いています」

━利用者がアリババのアリペイを使える利便性が加わり、ハローバイクは急速にシェアを拡大。本年(19年)夏には、アリババから400億円の資金調達をすると報じられている。ofoとの合併話も噂され、トップをもうかがう勢いである。

滴滴出行も事業本格化

配車サービス最大手滴滴出行は、深圳・広州などで営業していた中堅シェア自転車「ブルーゴーゴー(Bluegogo)」が18年に経営破綻すると、直ちに傘下に吸収。ブランドも「滴滴」を導入した。

同社の自転車は、変速機付き・スマート錠など特徴があり、原価が1台2.000元(1元16円として32.000円)と他社(ofo300元・モバイク1.000~3.000元・廉価車なら100~200元)に比べ格段に高い。そのため安い利用料では、償却も新車投入もできず、メンテナンス400~500元も要り、資金難から行き詰まったと言われている。

(破綻したブルーゴーゴー)

(滴滴傘下入りしたブルーゴーゴー)

経営立て直しのため利用料を値上げして、1元で走行できる時間が、30分から15分に短縮された。その後は15分毎に0.5元上がり、30分なら1.5元になる。ハローバイク・美団も値上げしたが、ofoは詳らかでない。デポジットも滴滴アプリを通せば不要になり、利便性を高めている。

19年滴滴では、シェア自転車事業とシェア電動アシスト車事業を統合して、「二輪車事業部」を新設。配車アプリトップのノウハウを生かし、自動車と自転車が連携する新しいシェアサービスを目指すと発表した。

滴滴はテンセント系と言われ、アリババと並ぶofoの大株主でもある。18年のofo買収計画は失敗したが、その後も輸送サービスの一環として、シェア自転車に並々ならぬ意欲を示し、アリババとの対立が表面化している。

因みに滴滴は、「ディディ」(DiDi)という名で、日本(大阪・京都)に進出、配車サービスを開始している。

(配車サービス・デイデイのマーク)

(続く)

4年前