<木の上の自転車> 「風をつかまえた少年」
(英マラウィ合作映画、2018年)

なるほど、自転車も使いようなのね。こんなシュールな風景を東アフリカ・マラウィの小村を舞台にした合作映画「風をつかまえた少年」(2018年)の中に見つけた。

マラウィは東アフリカの南部にある世界最貧国のひとつ。国民の85%が農業だというが、荒れた大地からの収穫だけでは自給自足すらままならない。親子4人暮らしのある農家の庭の井戸のわきに建てた木の櫓(やぐら)のてっぺんに、手づくりの大きな4枚羽根の風車が回っている。風車には何と!自転車の車輪が1個取り付けてあり、風車の回転を受けて青空を背に調子よくりんりんと(?)回っている。

見上げながら思わず、かのハリウッド映画「E.T.」の名場面、自転車で空を駆ける少年らの姿を連想してしまった。子どもと自転車の胸のすくようなファンタジックな爽快感! もっとも、こちらは空を飛ばないし、車輪はひとつだけなのだが、この愉快な自転車付き風車を製作したのは、まだ14歳の少年ウィリアム・カムクワンバ君。これは実話の映画化なのである。

シュールなアート作品にも見えるが、どうしてどうして、これは正真正銘の風力発電装置。この映画は彼が、なぜ、いかにして、風車で干ばつの村を救ったのか、を本人の体験記に基づいて映画化したものだ。

(映画のパンフレット表紙)

その年、2001年は常にも増して異常気象で、降り続く長雨で作物は腐り、その直後に今度は大干ばつに襲われて、ひび割れた農地からの収穫は何もない。国際機関からの支援物資を巡る農民同士の争い。為政者は何とかするどころか、却って政争の具に…と大混乱。

絶望的な食料危機は子どもの生活にも及び、ウィリアムは張り切って村の中学校に入学したその日に、授業料未納のために退学を言い渡される。もともと学校が大好きで、特に理科が得意。勉強して自分で何とか畑に水を引こうと思っていた。それには自分で電気を作ってポンプを動かさなくてはならない。ちなみに、同国の農村部では現在でも電化率は4%なのだ。

退学させられたが、ウィリアムはこっそり先生に頼んで教室の隅で理科の授業を聞かせてもらっていたが、校長につまみ出されてしまう。それでも勉強したい彼は、担任の先生にある交換条件の下に、学校の図書室に潜り込ませてもらう。親切な司書の先生のおかげで、ウィリアムはがらがらの本棚から「エネルギーの利用」という本を見つけた。そして、風車を使って充電した電池でポンプを動かせば、乾季でも穀類の栽培ができ、収穫が2倍になることを学んだ。

ウィリアムは村の若者たちに手伝ってもらい、ごみ集積場で廃品を集め、まずは小さな風車を作る。実験は成功し、ミニ風車の起こした電気でラジオが鳴った。次は本番の大きな風車だ。それには父親の自転車のダイナモ(発電機)が必要だ。だが、家族のためにろくに食事もせず、乾いた荒れ地を鍬で耕し続けて疲れ果てた父親には、自転車で風力発電など理解の外。「おもちゃなんか作って何になる」と聞く耳を持たない。「お父さんが知らないことを僕は知っている。学校へ行ったから」と、懸命に説得する息子を殴り倒してしまう。

可愛がっていた愛犬が餓死した。墓の前でひとり涙するウィリアム。そこへ父親が自転車でやってくる。妻から「私たち、いつまで愛する者を失い続けるの?」との涙の問いかけに胸を突かれたのだ。「俺はこれまで失敗ばかりしてきた」とうなだれると、「失敗ばかりじゃないよ。学校に行かせてくれたよ」とウィリアムは父を労わる。そして、「手伝ってくれたら、成功するよ」と。家族の微妙な心理が、言葉を交わし合ううちに強い絆に変わっていく。

父の後押しを得て、ウィリアムは勇気百倍。仲間たちの先頭に立って、木を伐り、風力発電のため櫓を組み建てる。板製の大きな4枚の羽根をそのてっぺんに設置、それに分解した自転車の車輪を取り付ける。回る羽根と連動した車輪で電力を起こし、ホースで汲み上げた井戸水を畑まで樋で導く。手作りの灌漑装置の完成だ。

うまく作動するか? と、かたづを飲んで見守る一同。始めポンプが乾いた音を上げた後に、井戸にたらしたホースの先から、どくどくと水が樋の中に溢れ出した。この瞬間、感無量で抱き合う父と子。母も来た、友も仲間も歓びの声を上げて走ってきた。グッとくる場面。実際、これで、村は一年中収穫が可能になった。

まるでドキュメンタリーのように生活の実態や家族の熱いつながり、キリスト教徒とイスラム教徒の共存の姿などが生き生きとリアルに映し出される。驚いたり共感したりしながら、いつの間にか遠いマラウィという国の暮らしが身近なものに感じられる。

これが長編劇映画初監督というキウェテル・イジョフォー監督は、ロンドン生まれのナイジェリア系俳優。ウィリアムの著書を読んで、内側からアフリカの真実を描きたいと10年がかりで脚本・映画化した。ウィリアムの父親トライウェル役で出演もしている。

余談ながら、主人公ウィリアム・カムクワンバさん本人は、その後奨学金を得てマラウィやアフリカの学校を出て、さらに米ダートマス大で環境学の学位を得た。2013年タイム誌“世界を変える30人”に選ばれるなど世界的名声を得た。現在、マラウィの農業、水アクセス、教育など広い分野で若者の夢を叶える環境づくりに尽力しているという。現在32歳。アフリカの明日を象徴する人物である。(了)

(映画のチラシ)

 

1か月前