(ロバート・ベン著 高月園子訳 白水社)
本書は、“自転車への愛の賛歌”を謳う「自転車本」であり、欧米にまたがる自転車誕生期から現代までの「自転車歴史書」でもある。
類書に無い特徴的なこととして、全編をパーツごとに分け、機能の発展のみならず、開発に携わった先人たちの物語が語られている。
フレーム/ステアリングシステム/ドライブトレイン/ホイール/サドルの5章構成のなかで、それぞれのパーツの歴史が詳しく述べられ、互いに影響しあって自転車が完成されていく過程が、ストーリーとともに理解できよう。
しかもそれだけではない。自転車の発明が自動車の発達へ、さらに工業全体へ影響を及ぼした歴史が、文化的背景とともに語られている。
そのペダンティック(衒学的)とさえ思える記述は、塗装やカラーリングにまで及んでいく。それら選び抜かれたフレームとパーツが組立てられ完成していく「夢の自転車」が、本書の狂言回し的な役割を果たす。
話は未来にも及び、健康づくり・都市交通・環境汚染などに果たす自転車の役割が、事例を引きながら、人々に明るい世界をもたらすと述べる。
━ようやく3500ポンド(約47万円)かけて、夢の自転車が完成した。末尾の文章は「……自転車に払う金としてはべらぼうだと、と思った。でも、と考え直す。今までに所有したすべてのもののなかでいちばん素敵なものにしては、高くない。」と結ばれている。
自転車ファンなら一読したい好著である。
(コメント:角田安正)
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