レンタサイクル物語16
中国式シェア自転車“二強物語(6)

岐路に立つシェア自転車

2018年は、中国シェア自転車のターニングポイントだった……。

16~17年にかけて100社を超えたシェア自転車企業は、とてつもない過当競争のなかでバタバタと討ち死にした。なかでも地方中規模都市で起業して、シェアを取ったのちの転売を目論んでいた会社や、前払い保証金(デポジット)目当ての詐欺まがいの一旗組は、いち早く姿を消していった。

こんな話があった━。

流行に乗って一儲けしようとたくらんだ中国人が、輸出仕様の廉価軽快車に、コストの安いGPSなしスマートロックを付け、中国・重慶市などの街中に配置した。ところが盗難・故障・放置が続出、GPSがないから90%が行方不明になり、わずか1年で廃業したという。性善説は通用しなかったようだ。

━トラブル多発の背景には、中国の国民性もあると思われるが、必ずしもそうとも言えない。先進国のはずのフランスでも似たようなことが起こっている。

パリ市内で、駐輪場不要の中国式で営業開始した香港「ゴービーバイク」は、破壊3.400台・盗難1.000台・修理6.500台の有様になり、2年と続かず撤退した。

同じパリの市営ヴェリブは駐輪場式だが、毎年配置車の30%程度が損耗、市の補助なしでは維持困難と伝えられている。

豊富な資金力で中小業者を圧倒したofoとモバイクでさえ、金をばらまくような消耗戦のなかで、共に経営破綻の危機を迎えた。「二強はいずれ合併する」と噂されていたが、予想ははずれofoはアリババ系の色合いを強めつつも独立路線を維持していたが、モバイクは美団点評に吸収され消滅した……。

シェア自転車はシェア経済か?

いつものように、中小企業経営者が中国通の友人に聞いた。

「現状のシェア自転車は、本来のシェア経済と言えるでしょうか?スマホを使うとはいえ、それほど高度なテクノロジーではありません。会社所有の自転車をレンタルして対価を払うだけなら、従来のレンタサイクルとあまり変わりませんね?」

さらに、経営者は顔をしかめながら話を続ける。

「シェアサービスと称して、スマホの電池パック、高校のバスケットボールなど多くのレンタル業が発生したそうですね。極めつけはレンタル傘ですね……」

自転車と同じように、開錠・決済をスマホでする仕組を傘の柄に組み込み、街中のガードレールにぶら下げた。「シェアリングアンブレラ」と呼び、使用料30分0.5元(約8円)で11都市30万本を貸し出した。

ところが、案に相違して自宅に持ち帰った人も多く、ほとんどが返却されなかった。創業者は「自転車ならどこでも放置できるが、傘はぶら下げるフェンスやレールが必要だ」とぼやいたそうだ。

━シェア経済(シェアリングエコノミー)は、モノ・空間・移動・スキルなどのいろいろな資産、なかでも遊休資産を活用して、個人間で共同使用する考えから始まった。例えば、自家用車の有料相乗り、所有者が住む住宅の空き部屋の賃貸などである。

いわば資源の有効活用であるが、この発想が進展して、消費者の意識や行動に“所有から共有へ”という変化が起こり、社会経済に大きな影響を及ぼしている。

中国通が答えた。

「北京の学生だった勢威がofoを創業したときには、キャンパス内で学生が乗っている個人の自転車を、皆で使用する発想からスタートしました。それに比べると、今のシェア自転車は単なる貸自転車業と言えるでしょう。」

「しかし、個人所有が当たり前だった自転車を公共交通手段として考える、大きな変化が起こってきました。自転車も、シェア経済の一環として広い視点で考えると、さらに新しく発展するはずです……」

アリババ対テンセント、IT2大巨人の対決

「ところで、中国のテンセントというIT企業を知っていますか?前にお話ししたアリババのライバルとされ、インターネットを通じていろいろな事業をしています」

(テンセント関連書籍表紙)

━「テンセント(Tencent)」は、IT関連の子会社を通じて、オンラインメッセージサービス、モバイル向けSNSや通信機能提供、動画やゲーム配信など様々な分野のサービスを手掛けている。1998年創業、2004年香港上場、時価総額は日本のトヨタを抜き米国「GAFA(グーグル・アルファベット・フェースブック・アマゾン)」に匹敵する。世界屈指の巨大IT企業であり、中国ネット企業3強「BAT(バイドゥ・アリババ・テンセント)」の一角である。

中国通の解説が続いた。

「アリババもテンセントもシェア自転車に興味を持ち、アリババはofoに、テンセントはモバイクに、資本面で深く関わってきました。シェア自転車利用者を自社に囲い込む戦略だったのではないでしょうか?」

(アリババとテンセントのロゴとアイキャッチャー)

「シェア自転車が始まった15年ごろは、モバイル決済普及初期でした。スマホによるQRコード決済のシェア自転車は、アリババの『アリペイ』、テンセントの『ウィチャットペイ』の拡大定着に非常に効果がありました。シェア自転車はデジタル世代の利用が多い。わずか2~3年で数億人がモバイル決済になじみました」

さらにと、中国通は強調した━。

「しかも、モバイル決済により膨大なビッグデータの収集ができます。アリババたちITプラットフォーマーにとっては大変な財産です。いろんな事業展開ができますからね。膨大な赤字もかまわずシェア自転車に投資を続けたのは、そんな思惑があったからでしょう。これからますますアリババとテンセントの対決が鮮明になるでしょう」

━ofo1.000万台・モバイク800万台……この過大な先行投入を生んだ背景には、「どんなに赤字を出しても勝者が総取りできる」とするスタートアップの考えと共に、「3~4億人の利用者を集めればいずれ利益が出る」という巨大プラットフォーマーの壮大な構想があったと言っていい。

中国式シェア自転車の収益化はできるか?

大量の放置車が「都市に発生した蝗(いなご)の大群」と皮肉られ、存在そのものが社会問題化したほどであり、事業としての存立は難しい。

もともとシェア自転車は膨大なコストがかかるビジネスである。先行配置する大量の自転車購入費/盗難・行方不明車の損耗コスト/放置・故障車の回収と修理にかかる人件費/公共交通として安い利用料/競争を勝ち抜く販促費などを必要とする。

逆にデポジットが禁止され、イメージ悪化による広告収入減などのマイナス要因があり、未だ利益モデルが確立されていない。

さらに、最近の米中貿易戦争が中国経済の減退に追い打ちをかけ、これまでのような巨額の資金調達は難しくなっている。90社を超すユニコーン(企業価値10億ドル以上の創業10年未満の未上場企業)の多くが赤字に苦しみ、シェア自転車企業の行く末も予断を許さない。

半面自転車は、反公害の都市交通インフラであり、手軽な国民の足と認識する人が増えている。

これからのシェア自転車企業は、過当競争に終止符を打ち、永続するための体質改善と利益追求の姿勢が必要となる。

配置台数を需要に見合う適正規模に縮小し、修理を徹底して稼働率を高め、利用料値上げなどの改善を重ねれば、利益モデルが確立できよう。放置・盗難問題もいずれ社会意識が向上して改善されるはずだ。

━今、中国式シェア自転車はビジネスとしての繁栄と衰退の分水嶺にある。

4年前