名著・新刊・大作・希少本を紹介する 「1冊の本」 中国の自転車産業

━「改革・開放」と産業発展━

(駒形哲哉著 慶応義塾大学出版会)

本書は、中国自転車産業研究の第一人者・駒形哲哉慶應義塾大学経済学部教授が、20世紀末期~2010年における中国自転車産業の構造変化と発展の過程を、多面的に分析した研究書である。

著者は現地に赴き、膨大な資料収集と徹底した現場調査を実施している。その成果は高く、自転車史を研究する人にとって、本書はこの時代を検証できる貴重な第1級史料になる。

本書を通じて、計画経済と制度改革の国策のなかで、国内市場中心だった中国自転車産業が、米国・台湾・日本と関わりながら世界の自転車工場に発展していく過程を、データに基づき理解できる。

一般に、「労働コストの安さが、計画経済30年間の中国産業発展の原動力であり、自転車産業はその代表例である」と言われている。

著者はそれを肯定しながらも、それにとどまらず、「単に安い労働力だけでなく、計画経済移行前から存在した工業化能力により、国際環境と国内経済の変化がもたらした3大主要産地への集約と、フル電動自転車のような独自の特性が生まれている」と自転車産業の発展を考察している。

そのような総合的な視点に立ち、3大産地の形成過程、主要企業の個別実態、さらに業界組織や地方政府の役割までも、豊富な具体的事例を挙げながら、7章構成のなかで詳述している。

付け加えれば、本書上梓後の中国経済は、資本の蓄積とIT企業の台頭により、加工貿易の域を脱した新しい発展期に入っている。自転車産業もシェア自転車の登場により、IT関連としても大きな変化期を迎えている。このあたりについての著者の考察による続編の出版を期待している。

なお、前々回の当欄(「1冊の本」)で紹介した「東アジア自転車産業論/日台中における産業発展と分業の再編」(渡辺幸男・周立群・駒形哲哉編者 慶応義塾大学出版会)は、同時期の自転車産業をよりマクロ的に考察したものである。併読すれば大いに参考になるであろう。

(コメント:角田安正)

3か月前