防犯登録と放置自転車問題

溝口和哉

自転車を買うとプラス数百円で貼付される「防犯登録」。

店員に「義務なので。」といわれ、そのまま手続きはしたものの、何のためにするのか、なぜ義務なのか、などと深く考える方は少ないようです。

本稿では、防犯登録のはじまりと義務化の過程について、みていきたいと思います。

自転車の登録制度は、1958年ごろから行われるようになりました。同年の自転車税廃止に伴い、自転車鑑札に替わる、自転車とその持ち主を紐づけるものが必要になったためです。

かつて、自転車には税がかけられていました。明治6年にあたる1873年から存在したこの税は、当初は「車税」の名目で、国税と府県税の両方が徴収されていました。ハガキ1枚1銭のころで、国税1円、東京府税1円でした。のちに府県税のみとなりました。

1900年以降は、税を納めたしるしとして、自転車に取り付ける鑑札が交付されるようになります。番号で持ち主の情報を調べられることから、盗難時の捜索にも役立てられました。

―――ちなみにこの鑑札。フレームにつけるもの、泥よけにつけるものなどで、各自治体によって、デザインが違います。

幸手市の自転車鑑札

(自転車文化センター 井上氏所有)

東根市の自転車鑑札

(筆者所有)

この税はその後、府県税から市町村税への変更や、荷車税との統合(「車税」から「自転車荷車税」に変更)がありつつも、1957年まで徴収されていました。85年もの長い間続いたことになります。廃止の理由は、税収を事務手続き等の費用が上回ったことのようです。

自転車税は無くなりましたが、同年から地方自治体ごとに、自転車の登録制度が始められます。運営は、各地域の自転車小売店を中心に構成される組合と、各警察署によって行われました。組合は登録用紙・用品の管理・配布を担当し、登録情報を各警察署が管理します。

警察は、鑑札が使われていたときと同様、自転車の登録情報を、犯罪に使われた自転車の特定に役立てました。また、各小売店にとっても、顧客情報の管理が容易になるというメリットがありました。

防犯登録が初めて法律の文章に登場したのは、1980年施行の「自転車の安全利用の促進及び自転車駐車場の整備に関する法律」(通称、自転車法)です。このとき、防犯登録は保有者の努力義務になりました。

義務化の背景には、駅周辺等での放置自転車問題が挙げられます。当時は「自転車の駐車問題」と呼ばれていました。1960年からの都市部への人口流入と、周辺地域の人口増、団地化が主な要因です。加えて、自転車の相対価格低下も要因の一つかもしれません。自転車の購入費は、1955年では勤労者平均月収の約35%であったのに対し、1990年には6.3%にまで低下しています。

一方で駅周辺の自転車駐車場の整備は遅れ、道路や周辺施設に自転車が常に置かれる状況が見られるようになりました。そして、1970年ごろから放置自転車は社会問題になりました。

1980年の防犯登録の努力義務化によって、防犯登録の目的に、「盗難・紛失の防止と被害の回復」と「駐車・放置された自転車の持ち主の照会」の2つが掲げられるようになります。

また、各県に、防犯登録を管理する組織(埼玉県自転車防犯協会、等)が設立されていきました。

しかし、自転車法成立後も、自転車の駐車問題は解消されず、地方の条例等によって撤去される自転車は増加しました。所有権防犯登録も努力義務では効果が薄いと批判されていました。

―――撤去・処分される自転車を、レンタサイクルや、発展途上国への無償供与など、再利用しようとする動きも見られました。しかし、それに対する反対運動が起き、実現しなかったケースもあったようです。

1994年、自転車法が改正に伴い、防犯登録が義務化されました。「自転車の安全利用の促進及び自転車等の駐車対策の総合的推進に関する法律」により放置自転車の撤去・処分に法的な根拠が与えられ、所有権の消滅する半年を待たずとも、「相当の期間」を明示することで、売却できるようになりました。

1993年には50.9%であった防犯登録の貼付率は、1998年までの5年間で76.1%まで上昇しました。駐輪場の増加も相まって、駅周辺の自転車の放置台数は減少していきました。

資料によっては、放置台数は減少せず、ほぼ一定だったとするものもあります。しかし、輸入自転車の増加等により国内の自転車供給台数が増加していたこの時期に、放置台数が増加しなかっただけでも、十分に効果があったと言えるかもしれません。

引用:『自転車統計要覧 平成28年度』p.151

今回は、防犯登録の始まりと義務化の過程を概観しました。防犯登録が行われるようになって数十年経過した現在も、「県ごとではなく全国で統一すべきだ」、「防犯登録していない自転車の所有者には罰則を追加すべきである」等、さまざまな意見が飛び交っています。

今後この制度がどうなっていくのか、少し考えてみると面白いかもしれません。

最後に、資料提供・ご教授くださった自転車文化センター井上一氏に、深く感謝いたします。

3か月前