天駆けるロード・レーサー、クラフトワーク

2019.04.27 赤松正行

ドイツの音楽グループ、クラフトワークは、テクノポップのオリジネータであり、シンセサイザーやリズムマシンといった無機質な電子音をノリノリのポップ・チューンに仕立てた張本人だ。そのクラフトワークは音楽界きっての自転車好きでもある。何しろ自転車に熱中するあまり、活動が休止したり、メンバーが離反して解散の危機が迫ったほどなのだから。

from Podcast special: Did Cycling Kill Kraftwerk?

かつて電子音は非人間的であり、不快な音だと言われていた。そんな時代にあってクラフトワークは1974年に「アウトバーン」なる自動車讃歌をヒットさせる。そう、自転車ではなく自動車だ。ただし、これは電子音楽史上初の快挙であり、多くの人に衝撃を与える。後のYMOやアフリカ・バンバータといったテクノポップ・ヒップポップの源流がクラフトワークに他ならない。

今となってはユルく聞こえるが、これが当時の最先端音楽だった。取り上げる題材は自動車、放射能、特急列車、ロボット、コンピュータなど技術一辺倒。自らをロボットと見なし、機械じみた動作で演奏する。ところが1983年に自転車レースを歌うシングル「ツール・ド・フランス」を発表する。冷徹で精緻な機械から、血と汗にまみれた肉体への突然変異。これには誰もが面食らった。

だが自転車は、あらゆる機械工学の要素が絡むと言われるほど、高度な技術の結晶だ。一糸乱れぬ集団走行はオートメーションの美学に通じる。薬物や血液のドーピングはサイボーグじみている。だから、リズムマシンとペダリングが同期しても不思議はない。自動車に始まり、色恋沙汰は無視して技術を歌い続けたクラフトワーク。その最終到達地点が自転車だったわけだ。

ところで、ツール・ド・フランスは言わずと知れたロード・レースの最高峰。その100周年にあたる2003年にクラフトワークは同名のアルバムを発表している。さらに、2017年のスタート地点がドイツのデュッセルドルフだったことから、キャニオンとのコラボレーションとして全世界21台限定の特別仕様ロード・バイクを発売、相変わらずの自転車フリークぶりを示している。

ただし、自転車に熱中していたのはリーダーであるラルフ・ヒュッターであり、他のメンバーは辟易していたのかもしれない。黄金期のメンバーであるカール・バルトスに自転車のことを尋ねたところ、そっけない返事だったと記憶している。筆者も自転車に興味がなかった頃であり、話はそれで終わってしまった。共同制作したアプリにも自転車のグラフィックスはない。

さて、先週から今週にかけてクラフトワークは来日公演を行っている。最早、伝統芸能じみたステージに思えるが、これまでは応じなかったファン対応も丁寧に行ったらしい。特別仕様バイクの特典であったブックレットにラルフ・ヒュッターがサインをしている。それを見るにつけ、ツアーが終わったらライドに行こうと誘うべきだったと思う。きっと喜んでくれたに違いない。

【参考】クラフトワークの自転車狂時代(Critical Cycling)
    キャニオンとクラフトワークのコラボレーション自転車(Critical Cycling)
    CANYON x KRAFTWERK 4/21 開封(Critical Cycling)
    CANYON x KRAFTWERKのブックレット(Critical Cycling)

4年前