東アジアの自転車産業、さらに変わる社会

EXPO2025に向けて燃える大阪の自転車博物館サイクルセンターに出向き、平成30年度の調査・分析委託事業の発表会を聴講。

自転車産業が1990年代以降にいかに<東アジア化>で変貌したかを、中国の社会主義市場経済への移行や、日本の平成不況をからめて、4人の論客が異なるアプローチから語りました。同じテーマの発表会を前回も聞いたので、どんな新しい視点や事実が更新されるか楽しみ。

駒形哲哉さん(慶應義塾大学)は調査・分析委託事業の座長で、まずは第二次大戦後から2000年にかけての時代を説いた。ご存知のとおり、日本の自転車産業が焼け跡から実用車どんどん成長し70年代からしばらくは10スピードなどの対米輸出もあり頂点を極めた。だがオイルショック、プラザ合意の為替激変がきっかけで、日本企業は80年代から90年代にかけて台湾や中国に生産を分業。この分業が日本からみれば国内産業の空洞化だが、台湾・中国からみれば産業移行であり、それに伴って流通も変容した。これが概論。

“所有”から“利用”へ
東アジア経済には構造連鎖的変化があった。
70年代中国の改革開放・社会主義市場経済への移行により中・台の変化が生じたし、日本は長期的不況に向かった。そこで分業(日本)=産業移行(中・台)なわけだが、とにかくジェットコースターのように何もが目まぐるしい状況。

中国は1988年には自転車生産が安定し、生産過剰に陥った。2000年には電動自転車が普及。2016年から17年はシェアサイクルのブームで自転車個人所有不振になった。そして2018年はシェアサイクルバブル終焉、米中経済摩擦となっている。

そこで生き残れた日本企業の中・台におけるスタンスは、シマノは人件費の安さで美味しいところを、唐沢ブレーキはどっぷり中・台の舞台に食い込んで独自の技術で低価格に対応しながらもシェアを確保。「私見では敷島がフレーム生産をやめたところで日本は下降線に」と駒形先生。

自転車の未来はもはや、“所有”から“利用”に視点を変えて考えたほうがいい。自転車利用の付加的価値の創造、産業概念の拡張である。

環境の視点から
粂野博行さん(大阪商業大学)からは環境モデル都市「飯田市」における自転車、というテーマでの発表があった。要点は、飯田市は“環境ありき”で行政が自転車利用を促進して成功している。が、そのやり方は他の都市にそのまま通用するかといえば否。

むしろ、僕が面白かったのは理解が違っているかもしれないが、駒形先生の自転車利用の付加的価値の創造、産業概念の拡張を受けて、<都市部の環境問題変化を、個人と社会に分けて>分析してくれたこと。自転車を取り巻く枠組みの都市部における変化だ。
戦後からの自転車認識は、社会的には通勤・通学・買い物の道具。個人にとってはスポーツの道具。
現状の自転車認識は、環境にやさしい道具でありシェアサイクルが普及し、配送業車も電動自転車を採用。

その通りだ。

グローバルな視察
中嶋貴子さん(大阪商業大学)は、オランダ、ベルギー、中国などの自転車事情を視察。交通政策や地域の取組み、NPOによる社会変革での事例もからめての発表。

行政、民間組織(企業やNPOや財団)、市民団体やサイクリストなど立場の異なる人々が組織の壁を越えてお互いの強みを出し合って社会的課題の解決に取り組むコレクティブ・インパクト。それにより共通の価値の創造を目指す動きがある。

自転車を幹に、革新的な社会的発展を考えれば、枝分かれの先には多様な花が咲く可能性がある。 地域開発活性化。防災。社会福祉。健康。環境対策。観光・集客。交通安全。なるほど。

オランダでは1950年代から、交通事故で死亡する子供が増えたので道路を市民が取り戻そうというSTOP THE CHILD MURDERS運動があった。1990年にはクルマから自転車への施策推進。2000年には自転車通勤車への税制優遇が行われた。

日本では自転車と歩行者の事故が、警視庁データによれば、2000年(平成12年)は1,827件だが2010年(平成22年)は2,760件で増加の一途。自転車保有台数は減っているのに事故は増加。 自動車運転免許証更新に来た人へのアンケート調査では、「自転車の交通ルールは知っているけれど守れていない」というなんとも正直な結果があったそうだ。

サイクルツーリズム
山部博幸さん(奈良県立大学)は、「自転車における利用市場の萌芽」を題目に話してくれた。

<生活圏以外で自転車利用する>体験がサイクルツーリズムである。

“しまなみ海道の成功事例”に影響を受けて、観光に力をいれた町づくりに取り組む行政や観光協会がある。スポーツサイクル利用者も取り込もうとしている。

147の観光協会にアンケートで意識調査すると、サイクリングロード(46.9%)、サイクリングMAP(41.5%)、レンタサイクル乗捨・配車(40.1%)、案内標識(39.5%)、駐輪場(39.5%)、サイクルポート設置(31.1%)を課題としている。

これまでのレンタサイクル事業は、自治体が観光振興予算で運営しているところが多く、維持費負担や貸出拠点の少なさが問題だった。そこにスポーツサイクルや電動自転車を導入すれは、導入額が割高になり、メインテナンス人材が必要となる。 しまなみではレンタル料金を500円から1,000円にしてクロスバイクを採用し、スポーツサイクルで3,000円にしても利用数は落ちずに増えている。

だが一方で観光庁WEBデータ(2018年)によれば、日帰り旅行で一般人が使う金額は15,000円未満であり、サイクリングは10,000円未満。 宿泊旅行では一般人が47,000円〜50,000円に対してサイクリングは31,000円。さらにサイクリングの観光客は通り過ぎてしまうので滞在して地域に経済効果をもたらさない傾向がある。だから、熱心なサイクリング愛好者は、広い地域では経済効果があるが狭い地域では経済効果はない。

狭い地域で効果がある事例としては、「飛騨里山 暮らしを旅するガイドツアー」事例がある。7人の英語で日本文化を語れるガイドが、MTBで里山を走りながら外国人旅行者に地域の人や子供とコミュニケーションを図る。インバウンドであれば経済的に有用。

サイクリングをアクティビティーとして地域限定にすることができれば地域観光推進になる。本来なら旅行客は宿泊が伴えば旅行予算5万円はあるので自転車に遣う方向にできるはずだ。

これもなるほどでした。

自転車博物館サイクルセンターは大阪・堺の仁徳天皇陵公園に隣接。天皇陵は世界遺産への意欲が高く、イベント「だんじり祭り展」のお囃子も元気でした

4か月前