角田安正
ofo(オッフォ)危うし!
2018年9月、いつものように新聞を広げたofo(小黄車)のCEO戴威(Dai Wei)は、大きな見出しに目を見張った。
━自転車メーカー上海鳳凰自行車は、中国シェア自転車最大手ofo(オッフォ)を相手取り、債務不履行7.000万元(約12憶円)の支払いを求めて提訴した━
鳳凰はフェニックスとも呼ばれ、低価格車中心ながら、生産能力300万台を持つ中国トップクラスの1959年創業の老舗である。1年前に鳳凰は500万台のサプライ契約を締結したが、未だ200万台に満たない台数しか購入されていないとして、未払金、違約金などを含め請求したという。
戴威(Dai Wei)は従業員に語った。
「シェア自転車会社の倒産が相次いでいる。当社も資金繰りが苦しいのは事実だが、資金調達先があるから心配は要らない」
さらに11月、報道が相次ぐ。
━ofoは「デポジット」(=利用者から預かる保証金)返還請求に応じていない。ユーザーは電話がつながらないと言っている。政府は問題を重視、財源の開拓、支出の節約などの助言をおこない、オンライン上での返還を指導すると発表した━
わずか1年前、スタートアップの旗手・時代の寵児ともてはやされた戴威は、今まさに破綻の岐路に立つ……。
(写真:赤松正行)
戴威 閃く
話は2014年に遡る━。
貧困地区の教育問題に関心を持つ北京大学大学院の学生戴威は、1年間農村に行き子供たちのボランティア教師になった。
ある日、自転車を借りて田園風景のなかをツーリング、「なんて自然は美しいんだ。スポーツは爽やかだなあ」と感動した。
「よし、これだ!ビジネスになるな」とばかり、観光地でレンタサイクルを始めた。今で言うサイクルツーリズムである。
ところが、案に相違して借り手が少ない。中国では都市交通手段ならともかく、遊び感覚の自転車需要はあまり育っていない。アッと言う間に元手はおろか運営資金すら無くなり、尻尾を巻いて引き揚げた。
再び大学に舞い戻った戴威は仲間たちと語り合う。
「今わが国は起業ブームだ。若者がどんどんスタートアップして、中にはユニコーン(=評価額10憶ドル以上の非上場ベンチャー企業)も現れている。我々も何かやろうではないか」
自転車に乗って広大なキャンバスを行き来する学生の姿や、あちこちにある放置車を見るうちに、アイデアが閃いた。
「そうだ、個人が持つ自転車を皆で共有すればいいんだ!構内は乗捨て自由にする。誰でも目の前にある自転車に乗って移動したら乗捨てる。盗難も無くなる。個人が一人ひとり自転車を持つことはないんだ!」
「これからはシェアリングエコノミーの時代だ。自転車を持っていても、いつも使っているわけではない。時には邪魔になることもある。だから乗らないときには、1~2元程度の安い料金で他の学生にも使わせて利用回数により金を貰う。個人の自転車をシェアすれば、初期費用もあまりかからない。学内放置車も減る」
「いわば大学生専用のシェア自転車だ。全寮制が多いから他校にも広げれば借り手は多い。問題は課金システムをどうするかだな……」
戴威は生まれながらのデジタルネイティブである。
「学生は皆スマホを持っている。これを活用すればよい。自転車にQRコードを貼り付けダイヤル式の鍵を付ける。スマホでコードを読み取ると開錠番号が送られてくる。いたって簡単だ。よーし!これでいこう」
使命感に燃える
「しかも、政府は環境対策として自転車利用を奨励している。昔の自転車道路も残っている。いずれ大学だけでなく都市でも普及させれば、交通構造が変わり渋滞も解決、大いに社会の役に立てる。やるなら自転車だ!」
地下鉄などの公共交通機関の駅などから目的地までの距離いわゆる「1(ワン)マイル」は、歩くのはきつく、タクシーは使い難い。共用の自転車があれば簡便であり、公共交通として立派な社会インフラになる……。
戴威は1991年生まれ、いわゆる「ジョウリンホウ(90后)」の新世代人間だ。90年代以降急成長を遂げた中国社会で、一人っ子政策のお陰で住居の心配もなく、金銭的にもゆとりがあって趣味を楽しむ20歳世代である。一つのことをコツコツやるより、とりあえずやってみてダメなら別のことをやる、という傾向がある。
使命感だけでなく、ビジネスチャンスがあると考えた戴威は、学生仲間数人を誘い、シェア自転車の事業化に乗り出した。
学生の所有車1.000台を契約してスタートすると、爆発的な人気になり新車を追加、たちまち倍増の2.000台規模になった。シェア自転車は新交通システムとして他校にも広がり200校に普及していった。
「よーし、これから街中でもやろう!」
まさに戴威の前途は洋々としていた……。
(続く)