名著・新刊・大作・希少本を紹介する 「1冊の本」 東アジア自転車産業論

━日台中における産業発展と分業の再編━

(渡辺幸男・周立群・駒形哲哉編者 慶応義塾大学出版会)

本書は、日・台・中3国の自転車産業史の変遷を踏まえながら、多くの現場調査と検証を基に、日・中経済学者が自転車産業の構造変化を共同研究した500ページにわたる大作である。

内容は、副題に沿って第1編「日本編」/第2編「中国大陸・台湾編」/第3編「東アジアの自転車産業発展の論理と政策的合意」の3編で構成されている。

第1編は、多数の完成車・部品製造業と専門卸小売業により、生産から販売までの国内完結型であった日本自転車産業が、90年代以降に急激に解体されていく過程を克明に調査したものである。

需要の低価格化、製造業の海外移転、流通業のチェーン化・ファブレス化などの目覚ましい市場変化が、自転車集積産地・堺の消滅と多くの企業の衰退と淘汰を招いた事例とその実態が解明されている。

第2編は、中国・台湾の産業基盤を解析した上で、日系・台湾系の参入とともにグローバル化していく中国自転車工業の成長と変化、さらに3大主要産地華南・華東・天津の出現とその実態を綿密な現場調査を基に余すことなく記述されている。

第3編はその総まとめとして、「日本での量産体制は海外移転したが、日本自転車産業が消滅したわけではない。東アジア化され東アジア大で再構築された」としている。

そして「日本国内市場の大きさと日本人の持つ製品・品質にこだわる独自性から、世界有数の自転車先進国として新しい形の日本の自転車産業が存立可能である」と示唆している。

本書は、わずか20年間で構造が激変した世界の自転車産業の実態に迫る第1級資料であり、日本と中国の経済学者7名の共同研究の成果である。

自転車産業論や自転車史研究者にとっては座右の書となり、歴史好きの一般読者にもドキュメンタリーとして興味深い書物である。

この類書のない労作の著者、渡辺幸男・高橋美樹・駒形哲哉(ともに慶應義塾大学)、粂野博行(大阪商業大学)、周立群・謝思全・谷雲(ともに中国・南開大学)の皆さんに心からの敬意を表します。

(コメント:角田安正)

4年前