自転車によるひき逃げ事件

自転車の「酔っ払い運転」に続き「ひき逃げ事故」が発生した。「自転車で人をはねてひき逃げするなんてあるの?」と意外に思う人もいるだろう。

事件のあらましは━。

18年11月東京都内でイヤホンをつけた30代男性医師が、自転車に乗って交差点に差しかかり、一時停止しないでそのまま進入、走行してきた自動車に接触した。あわてて自動車は急ハンドルを切り、たまたま近くを走っていた自転車をはねた。自転車に乗っていた40代女性は転倒し脳挫傷の重傷を負った。

問題はそのあとだ━。

医師は壊れた自分の自転車を放置、倒れた女性を知ってか知らずか、タクシーに乗って立ち去った……。

警視庁はどう判断したか━。

医師は「女性のけがは知らなかった」と反論したが、警視庁は「悪質だ」として2つの罪に問うた。医師のくせにという反感もあったのだろう。

1.一時停止など安全確認を怠り事故を起こした。=重過失傷害罪

2.けがをした女性を救護しなかった。=道路交通法違反「ひき逃げ」

同様に外部音を遮断するイヤホンをつけたり、傘をさしたまま自転車に乗ったりして事故を起こすと、過失傷害に問われかねない。

また直接でなくても自転車が事故を誘発した場合、けが人を放置して何もせずに立ち去れば、自転車がはねていなくてもひき逃げになる可能性がある。

過失傷害は言うまでも無いが、ひき逃げの根拠は道交法にあって、事故の場合車両の運転者には負傷者の救護義務が生じる旨が規定されている。車両には自転車も「軽車両」として含まれるから、そのまま逃げるとひき逃げになる。

━このように自転車が加害者になって歩行者が死亡や重傷を負った事故は、全国で年間およそ300件もある。その多くは損害賠償請求訴訟になり、高額の賠償判決が相次いでいる。

中には、高齢の女性が自転車にはねられ寝たきりになった事故で、11歳の小学生男子側に9500万円の賠償判決が出た例もある。

電動アシスト車の普及、高速で駆け抜けるスポーツバイク、スマホなどの「ながら運転」……街中では事故が多発している。

思いもかけぬ事故に備えるには、保険会社が提供している傷害・損害賠償の「自転車保険」への加入が有効である。年間数千円から1万円の掛け金で安心が買える。前記300件の重大事故では、6割が保険に加入していたという。

保険加入を義務付けた自治体もあり、国交省でも義務化を検討している。

自転車交通事情は良好とはいえない。乗る人のモラルと自らを守る姿勢が問われる時代になっている。

 

4年前