書評紹介(2)マルコ・ファヴァロによる「自転車物語・スリーキングダム・王国の栄枯盛衰」の書評

(注)本記事は 『Cyclist』の人気連載『つれづれイタリア~ノ』でもおなじみの、イタリア人ジャーナリストでサイクリストのマルコ・ファヴァロ/ Marco FAVAROさんが「日本の自転車史を知りたい人におすすめしたい一冊」

として紹介いただいた書評に、著者(角田安正)が補足説明を加えたものです。詳しくはサイクリスト(https://cyclist.sanspo.com/381885)にリンクください。

 

 

国内でも数少ない日本の自転車の歴史を綴った書です。幕末~明治、大正時代にかけて日本国内で自転車がいかにして普及し、産業化したのかを紹介する内容ですが、生き生きとした文章に「臨場感を覚える」。誰もが知るあのメーカーも登場する、おすすめ度「★★★★★」の一冊です。日本は自転車の歴史に関する書籍が少ないですが、やっと増えつつあります。タイトルは理解し難いものですが、正直な感想を申し上げますと、久しぶりに良い本に出会いました。

著者:確かに日本には、前史からの自転車史を一貫した述べた書籍は少ないようです。ご感想ありがとうございました。

その場・時代にいるような錯覚

執筆スタイルがユニークでとても面白い。著者である角田安正氏は、ただ単に数字と名前を淡々と並べるだけでなく、登場人物に生き生きとした表情を与え、会話をさせ、読者がまるでその場にいるような錯覚に陥る“技”を見事に取り入れています。

歴史本でありながら、小説を読んでいるような爽快感があります。出てくる人物はバラエティに富み、夏目漱石から慶應義塾大学のおぼっちゃま達、双輪商会などを作り上げた初代社長、今では忘れ去られた伝説のレーサーたち。さらに宮田製作所や岡本ノーリツ、日本自転車など、国産自転車メーカーの誕生秘話。知っている名前ばかりで、ためになる本です。

当時の自転車魂が伝わってくる

よかったことは、著者がいかにして読者を取り込み、作品の中で出てくるデータをわかりやすくするかということに神経を尖らしている点です。たとえば、当時の自転車の価格を現代のお金に換算して値段を表すのではなく、当時の給料と比較しながらどれぐらい高価なものだったか、という比較方法を選びました。説得力があり、明治時代に流行っていたアメリカ製とイギリス製の自転車がいかにも高価なものだったのか、それに立ち向かう日本勢は自転車の価格を安くするためどれほど努力していたのかがよくわかります。

当時の生活スタイルもセンス良く紹介されます。興味深い話に、販売開始間もない日本製の自転車のヘッドロゴが日本語だったので売らない!というエピソードがありました。昔から日本人には外国に対する強い憧れがあったことが伺えます。

そして、登場人物の性格と特性が細部まで紹介され、極めて親しみやすい存在となっているのも特徴的です。歴史を扱う本だと、一般的に登場人物についてあまり語られず、年号や数字だけ淡々と並ぶ本が多い中で、パイオニア時代の自転車業界は創業者か職人の性格が自転車作りに強く反映されるため、この作品の中でその“魂”のようなパワーを感じることができます。明治時代の商社や、職人のハングリーさから学ぶ必要があるとさえ感じました。

タイトルと表紙は目をつぶって

ただ、残念なのがタイトルと表紙です。スリーキングダムは「三つの王国」を意味します。最初は「三国志」の話かなと思って、友達の推薦がなければこの本は眼球にも入りませんでした。そして表紙。何が写っているのか、コアな自転車ファンであって極めてもわかりにくい。せめて自転車のヘッドマークやホイールの写真やイラストを選んだ方が良かったのではないかと思います。編集者、あるいは著者の意図はわかりませんが、完全な失敗です。

著者:赤松正行さんからも「三つの王国」について同様な指摘を受け、弊サイト「書評(1)」記事の末尾に著者の意図を記述しています。クラシック車の写真は自転車黎明期をイメージして、通常の自転車本にない視覚的なデザインを狙いました。しかし店頭で表紙の帯をつけたままで見ると自転車とはわかりにくく自転車愛に欠けていたと思います。裏表紙にその由来の説明を加えたら評価も違ったかと思っています。

そして持論。第1章に著者の強い訴えが登場します。「自転車はドイツではなく、日本で生まれたものだ」という主張です。15世紀の天才発明家、レオナルド・ダ・ヴィンチが自転車の原型を描いたと信じる人は、特にイタリア人に多いですが、近代的な意味での自転車を作り、販売に成功させたのは、紛れもなくドイツのフォンドライス男爵であることは間違いありません。

ま、最初の数ページを除けば全体の内容は素晴らしく、絶対に読むべき本の一つだと思います。

9か月前