自転車史探求ノート(1)役割を終えたJISマーク

あなたの自転車は「日本工業規格」に適合していますか?

そうであれば、車体のどこかに「JISマーク」が貼ってあるはずです。 

もし工具をお持ちでしたら、どこかにJISマークが彫られていることがあるので探してみてください。

JISマーク

工具に刻印されたJISマーク

日本工業規格(略称JIS)とは、日本の工業製品に関する規格や測定法を定めた日本の国家規格のことです。自転車をはじめ多くの工業製品生産に適用され、その合格証明がJISマークです。

日本における規格の標準化は大正期に定められた「日本標準規格(JES)」から始められます。その後、戦時中の「臨時日本標準規格(臨時JES)」、戦後の「日本規格(新JES)」を経て、1949年に現在のJISが制定され、JISマークの貼付が始まりました。

━いわば、50年代は自転車の規格の整備が進んだ時期であり、60年代以降にJISマークが一般化していきました。

自転車は58年頃まで、主に業務用に用いられる高価な乗り物でした。現在のように自転車が日常の足として広く使われるようになった背景には何があるでしょうか。

それには自転車の「規格」が関係しています。寸法や材質、強度などがきめられたことで、大量生産や補修が容易になりました。

部品のJIS取得は、チェーン、スポーク、リムから始められ、50年代の終わりにはほとんどの部品がJIS指定商品になりました。

━ところが、完成車には厄介な問題がありました。

当時の完成車メーカーは、部品メーカーが生産した部品を集荷、セットで梱包して小売店に配送、小売店が完成車に組み立てる方式でした。

このため完成車のJIS取得には、組み立てる小売店が技術者として認められる公的制度が必要になり、当時6万店もの小売業者に技術検定試験が実施されました。

そのうち、大手の完成車メーカーが自社工場で完成車組み立てを開始、62年に初の「完成車JIS工場」がスタートしました。その後完成車JISも一般化、小売店は技術者的性格から販売業者に変わっていきました。

そして規格に則ってつくられた製品には、それを示すマークが貼付されました。

上側は完成車、下側はフレームのJISマーク
数字は製造工場の登録番号

マークを表示してよいかの判断は、「その工場がJISに適合する製品の製造を将来とも継続して行うことができる能力を持っているか」に依存します。このため完成車メーカーは58年頃からさかんに設備投資を進めました。規格に準じた良質な製品を持続的に生産するため、設備の近代化や社内規格の整備が行われました。

その後、JISは当たり前になりましたが、当時は部品・完成車問わず、誇らしげに広告に反映させました。

規格の整備と各社の設備投資を背景に、需要の増加も相まって、自転車の生産量は1960年から72年の間に329万台から708万台に増加しました。

━面白い話ですが、市場では規格を取得しないで、JISマークに酷似したマークを貼付する「JISマーク詐欺」が横行していました。JISマークは一種のステータスであったと言えます。

━さて、JISマーク、現在の自転車にはほとんど見られません。生産工場の海外移転や国内工場の完熟を主な理由として、自転車へのJISマーク貼付は1996年に廃止されています。

しかしその名残があります。お手持ちの自転車のハブをご覧ください。「VIAマーク」が貼付されているかもしれません。

 

かつてJIS貼付の検査を行っていた日本車両検査協会が、企業との契約検査によってJIS規格以上の品質を持つ製品と認めた場合に貼付しています。

━今日自転車の国内工場はほとんどなくなりましたが、日本の自転車産業を支えた規格の痕跡は、マークとして刻まれ生き残っています。

なお、私(溝口和哉)は社会人になったばかりですが、大学時代から自転車史を研究しています。今後、テーマを変えながら寄稿を続けます。ご一読いただければ幸いです。

 

4年前