自転車一辺倒
━風と彩(いろ)と人生と━
(加藤一×永六輔共著 講談社)
「下町ッ子同士のよもやま話ははずんで、永さんも東海道が砂利道だった時代に、ほこりにまみれ、大阪までペダルを踏んだことを知った。私たちはその思い出を共有し、すっかり意気投合してしまった。……」(あとがきより)
画家加藤一(かとうはじめ)は自転車60年、放送作家永六輔(えいろくすけ)は50年。共に故人になったが、1995年頃の自転車への愛情に溢れた2人の珠玉のような対談録である。
加藤はアマ自転車競技からプロ競輪選手に転向。30歳台から抽象画家としてパリに移住。国際自転車競技連盟副会長など競輪の発展に尽くした。
永は放送作家・作詞家・エッセイストとして名高い。ほとんど毎日を旅に暮らし各地のラジオに出演、本物の芸能の発掘に努めた。
永 自転車に乗ることのプラスは、行動範囲が広がる、健康のためにいい、排気ガスを出さない。子供たちでいえば、運動神経が発達する、健康にも絶対いい。風と話ができる。
加藤 いいことずくめです。悪いことがありません。マナーさえ守れば。
話は2人の少年時代の思い出からはじまり、人生を通しての自転車との関わりが、中野浩一・薩摩治郎八たちとの交友をまじえて鮮やかに描かれている。
序文に掲げた永六輔の散文詩のなかに本書が集約されている。
「この本には、珍しくタイヤとハンドルがついていて、走り出すと色彩があふれる。」
自転車ファンはもちろん一般の人にも向く興味深い好著である。知られざる自転車裏面史としても面白い。
(コメント:角田 安正)
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