映画に見たシュウインの崩壊

過ぐる日、映画「王様のためのホログラム」(日本公開2017年)を鑑賞したが、思いかけずも、米国自転車メーカー・シュウィン社の崩壊を垣間見た。

シュウインは、世界最大の自転車国だった米国のシカゴで1895年に創業、大人車衰退後も子供車の代名詞になっていた名門。1960年代の自転車ブームで急拡大、世界のトップメーカーだった。しかし、利益を求めて日本・台湾・中国へと次々に生産移転、米国企業の中でも空洞化の早かった事例である。現在もブランドは生き残っている。

俳優トム・ハンクスが演じる映画の主人公は、シュウインの取締役として美しい妻と娘と優雅な生活を送っていた。ところが業績悪化の責任を問われて会社を解任され、すべてを失う。

畑違いのIT企業に転職、「自転車を売るのとは違うよ」と言われながら、サウジアラビア国王に3Dホログラムを売りに行く。主人公は異文化生活の中で悪戦苦闘しながら、新しい人生を見つける……というストーリーである。

映画の冒頭、サウジから父親に電話すると「今やオークランド(地名)では橋の建設を中国がやっている。シュウインは自転車を中国に注文して、900人の雇用を失った(のも当然だ)」と言われ、空洞化により職を失った多数の従業員の回想的な映像が出てくる。

劇中、主人公は「シカゴの冬は嫌いだ!」と繰り返す。シカゴは厳冬で知られるが、シュウイン本社工場を思い出してのことであろうか。

サウジの仕事相手の若者から、高級スポーツカーを借りて巧みに運転すると、「シュウインでは待遇が良かったのですね」と冷やかされ、「自分は米国に5年留学していた。シュウインの研究をした」と言われる。

「安く、はやく、丈夫な作り方を教えたら、たちまち丈夫な中国製が出てきた」「ラレー・フランス・イタリアなどそれぞれが伝統や技術、デザインがあった」「今では、アジアの工場からマークだけ違う自転車をつくっている」などと会話が続く……。

最後に、若者から「中国に移転するほかに、生き残る道は無かったか?」と聞かれ、「それは複雑な問題でね……」と答えのないままに、再び旧従業員の立ち並ぶ幻の映像が出てくる。

結局、産業移転にともなう工場空洞化と雇用喪失は、答えの出せない問題であろう。

米国ドナルド・トランプ大統領が苦慮するゆえんである。

 

1年前