レンタサイクル物語5

2007年、交通渋滞解消を目的にパリに登場したシェアサイクル「ヴェリブ」は、瞬く間に欧米主要都市から台湾・シンガポールまで普及した。
だが、日本の動きは鈍かった。観光地でのレンタサイクルは盛んだったが、所詮観光業者の副業の域を出ていない。いち早く70年代に脱サラして起業した西英雄の「近江レンタサイクル」も、史上初の専業者ではあったが、やはり観光目的であり都市交通手段ではない。

なにしろ20世紀末前後の日本の駅前は、中国から大量流入した廉価ママチャリの山に埋め尽くされ、自治体や私鉄関係者はその対応に大わらわ。なす術がなかったと言っても過言ではない。
それでも、いくつかの自治体は、回収修理車をレンタルに活用した。また、京都の駐輪場建設業「アーキエムズ」のように、都市で使用する試みも徐々に現れていた。
2010年スマートシティを目指す富山市は、パリ情報を耳にするや、日本で初めてヴェリブ式のシェアサイクルを展開した。

そうした世界の動きの中で、年産8千万台にも及ぶ世界一の自転車大国中国はどうしたか?
2015年創業のベンチャー企業「モバイク」(摩拝単車)は、IT技術(=スマホ)による画期的なレンタサイクル管理システムを打ち出した。
その最大の特徴は、スマホのGPSで空車を探し、返却は指定場所でなく乗り捨て自由という利便性にあった。これなら拠点が不要となり、事業化が容易になる。

もう一つは、スマホで車体のQRコードを読み取り、開錠や代金を支払う簡便性、クレジットカードのヴェリブ式より優れていた。使用料も30分1元(約17円)、ヴェリブは30分無料だが、1時間1ユーロ(約132円)に比し断然安い。

たまたま中国社会は、80年代には自転車が交通手段の7割を占めていたが、この頃には自動車の普及で1割程度に下がり、逆に自動車による環境汚染に悩まされていた。だから地方政府がモバイクに飛びつき、北京、上海などを中心に100都市、使用車500万台、利用者2憶人を超える急成長を遂げたという。シンガポールやイギリス、さらに日本の札幌・福岡にも進出、資金1千億円を調達、シェアサイクルの世界制覇を目論んでいるようだ。
今では「OFO」など同業70社が誕生、全保有1600万台を超える競争となり、乗捨て自由は大量の放置車を生み、新たな社会問題となっている。

日本では、東京都や横浜、仙台などの自治体の委託により、NTTドコモがパナソニック電動アシスト車を使用、乗捨てはできず、拠点への返却が必要である。価格も30分150円とやや高い。
ドコモの参入を見たIT関連企業が続々参入、ソフトバンクは中国OFOと組み、RINEはモバイクと組んだ。WEBサービスのDMMも参入を表明している。

また、売上が停滞するコンビニは、顧客の来客を高める狙いで、セブンイレブンがソフトバンクと提携、全国1千店に5千台の配置を発表。他のコンビニやホテルまで、シェアバイクは広がりを見せている。

だが、日本でのシェアバイクの発展にはいくつかの問題がある。
その一つは、乗捨て不可のため取扱拠点を増加せざるを得ず、拠点探しとそのコストが必要になる。東京のように自治体が主体の場合は、拠点場所や補助金も頼れるが、完全民営では採算問題が浮上する。

また、自転車そのものの問題もある。
もともと車輪回りは、スポーク折損やタイヤパンクなど故障しやすい箇所である。まして電動アシスト車となると、充電スタンドなども必要になる。メンテナンスや乗捨てられた自転車回収コストも問題になる。
普通の乗捨てモバイル車なら、自転車はせいぜい1台2~3万円、ドコモは電動車であり、付帯設備償却やメンテナンスまで含めると1台換算20万円は掛かるのではないか?回転率が悪ければ採算が取れない。
そこで本格的なレンタル専用車開発が課題となる。さらに競合が激しくなれば、システム全体の他社との差別化が決め手となる。
ごく最近参入を発表したアプリ大手メルカリは、拠点づくりに地域との連携を盛り込んでいる。事業化への道は早そうだ。(詳細別掲)

自転車文化センターに保存されている「ブリヂストンサイクル50年史」を紐解くと、「1969年にレンタサイクルの事業化に着手した」との記録がある。半世紀を経た今日、ようやく世界の国々で大輪の花が開こうとしている。

1年前